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ティアの真実、そして決断へ(10)

 「さて、やっとうるさい犬を片付けられましたか…」


 落ちついたクロノスの言葉にティアは、じりっと無意識に一歩下がっていた。


 ……どうしよう。

 力なく地に倒れたラースの傷口からは、血がにじみ地面に広がっている。

 早く治療をしないと手遅れになる。私が使えた聖女の『治癒の奇跡』――これを使うことができれば、まだ間に合うかもしれない。でも、フィヌイ様が傍にいない状態で使うことがはたしてできるのか? これは完全な賭けだ…

 それに、目の前にはあのクロノスがいる。こいつがあっさり私を通してくれるとはとても思えない。


 一体どうしたらいいの……

 たとえここで取り乱し、泣き叫んだとしても状況はきっと変わらないよ。

 それじゃ…昔みたいに、心のどこかで助けてくれる人をただ待っているだけだった…神殿で働いていた頃と変わらない。

 考えなくっちゃ。今、私にできることを……

 泣きじゃくりたい気持ちを必死でおさえ、なんとか冷静に周りを見つめ判断しようとティアは懸命に努力する。


 だがそんなティアの焦りを知っているのか、ふいにクロノスは優しい言葉で語りかけてきた。


 「ティア…あなたは先ほど私に、本当はなにがしたいのかと言っていましたよね?」

 「…ええ」

 「その答えを教えましょう。あなた私の姪であり、同じで本家の血筋を引くもの。知る権利はあるでしょう。私はあなた達が邪神と呼ぶ、あの方が切望する願いを叶えて差し上げたい、ただそれだけなのですよ。あの方は人によって歪んでしまった世界を滅ぼし、無へと帰してくれる」


 クロノスはどこか遠く、なにか恍惚とした眼差しをどこか遠くへと向けていた。


 「あなただって知っているでしょう。王都にある神殿の現状を…あそこは人々のため、神に祈りを捧げ多くの民を助けるため力をつくすと口では言っておきながら、実際には自分のことだけしか考えていない。なんて身勝手で自分本位の人間が多いことか…この世界はそんな人間にあふれています。自分が幸せになるためには、相手を平気で蹴落とし不幸にしてもよいと考える醜い人間があまりにも多く、真っ当に生きている人間はその犠牲となっている。ほら、そこに転がっているこの男の妹だって、聖女と言っておきながらなんと愚かなことか…救いようがないではありませんか。その状況を放置していた主神フィヌイだって同罪ですよね」

 「……」


 私はなにも言えなかった。この男は嘘をついてはいない。きっと本心からの言葉なのだろう。

 ……でも……それでも、私の心はすでに決まっていたのだ。


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