ティアの真実、そして決断へ(7)
――タンッ!
ラースは地を蹴るとクロノスに向かい正面から突っこんでいく。
その時はすでに剣に抜き放ち、
風を切り裂く鋭い音を立て、たった今までクロノスが立っていた地面を薙ぎ払う。
クロノスは大きく跳びさがり、剣の軌道をさけながら呪文のようなものを呟いていた。すると手に闇の刃のようなものが現われ、
ラースとなんどか刃を交えると、いったん遠くに離れ魔力による攻撃を放つ――その繰り返しだった。
後はいくつもの銀の軌跡が弧を描き、甲高い金属がぶつかり響く。
ラースの風の魔法を使った空間を切り裂く音、クロノスのなにも無い空間からいくつもの闇の刃をラースに向け放ち、それをあいつが剣の刃で弾き返す。
おそらくラースの扱う剣は――普通の物ではなく強い魔力が宿っているようだ。
しかし、ティアに見えていたのはここまでだった。
はっきりいって次元が違いすぎる…お互い相当戦い慣れしているし、ほぼ素人である私が見ても、それははっきりと分かる。
下手にラースに魔法の援護などしようものなら、あいつに私の地属性魔法が当たってしまうかもしれない。
私はフィヌイ様の特訓のおかげで基礎体力は上がってはいるが、接近戦で戦うことなどできないし、なによりお互いの攻撃が速すぎてどうなっているのか、まったく次の動きが予測できないのだ。
悔しいけど、私ではついてはいけない。
けど、そんな私でも少しずつあいつが押されているのだけはわかる。
フィヌイ様のタリスマンの加護で、あいつの体の表面に神力が宿った魔法防壁の幕が薄っすら見えるけど、それもちょとずつ弱くなってきている。
一方のクロノスは、前回あった時よりも禍々しい魔力に覆われていた。たぶん邪神の加護というやつだろう。
それに加え、ここは邪神の『魂』が封印された地。明らかに邪神の加護のあるクロノスの方が優勢だ。
あいつの動きにも、だんだんキレがなくなり鈍くなってきている。疲れも見えて息が上がってきているようだ。このままじゃラースが危ない。
なんとかしなくっちゃいけない。私の気持ちは焦るばかりで、
「馬鹿のひとつ覚えのようですが、攻撃が単調すぎだな。片手が塞がっているから接近戦でも勝てるとでも思ったのか!」
「どうとでも、言ってろ!」
剣や魔法で連続攻撃をくわえながらも、ラースには焦りが見えていた。
「そろそろ遊びも終わりにしましょう。あの生意気な小娘を始末して、フィヌイの力を使い邪神を復活させたいのでね」
「……!」
クロノスはにこやかな笑顔を浮かべたまま、ラースの胸に闇の刃を突き刺した。そしてティアの目の前で、ラースが刃につらぬかれ力なく崩れ落ちていくのが見えたのだ。