ティアの真実、そして決断へ(6)
一方、ラースは気持ちを切り替えるように息をはくとダレスに向かい、
「まあ、あの犬っころの真意がどうであれ…いや、何も考えてない可能性が圧倒的に高いが、それでもやることに変わりはないか」
「そうだな…、フィヌイを取り戻しこの娘とフィヌイの力を合わせ、結界を張り直すことだ。ほころびを直し、邪神の再封印に成功したならば、どう足掻いてもあの男はこれ以上の手出しは完全にできなくなる」
「だがあのクロノスのいる場所。邪神の影響なのか…瘴気が濃くって、どう考えても近づけねえぞ」
「ほう、わかるか。ただの人間があの瘴気の中に入れば、邪神に生命力を奪われ即死だ。だがお前たちには、フィヌイの神力がこもったタリスマンがあるだろう。このタリスマンの加護があれば短時間であれば、自由に動き回ることができる。勝機があるとすれば、そのあたりになるか…」
「そういえば、すっかり忘れてたぜ。あの犬っころ、ついでに渡しておくとか言ってティアと似たようなペンダント、俺ももらっていたんだよな」
「――ラース! その言い方はないでしょ、フィヌイ様に失礼よ」
「なんだよ、そんなに怒るなよ。俺も肌身離さず付けてるよ。ちょっと、忘れていただけだろ…」
ティアの非難の声に、慌てて弁解をしてみたが、だがふと不敵な笑みを浮かべたのだ。久しぶりにこいつとの掛け合いに懐かしくなったのか、笑みがこぼれていた。
「どうしたのよ…急に」
「まあ、やるべきことはこれで決まったなと思ってな」
「なにか作戦でもあるの?」
「そんなものはない。ただ、俺がクロノスに向かい突っこんでいくから、ティアが隙をみてフィヌイを取り戻す。作戦と言っても、それだけだ――」
肩をすくめると、あっけらかんと彼は答えたのだ。
さっきの話しから、どう考えてもダレスの力は当てにはできない。ならば、こちらも腹をくくって突っ込むしかないのだ。
クロノスにウロボロスが壊滅したことを伝えれば、少しは戦意を無くし投降するのではないかと…僅かな望みにかけたが、それも完全に無理とわかれば、もう最後まで力の限り足掻くしかない。可能性はゼロではないのだ。
ふと見れば、ティアは戸惑いながらもなにか言いたそうな顔をしていたが、それでも納得してくれたのか。
「わかった。あのさ、気をつけてね」
「お前もな・・」
最悪、せめてティアだけでも生き残れるように最善をつくすしかない。そう心に決めると別れを告げ、彼は地を蹴りクロノスへとむかい突っ込んでいったのだ。