ティアの真実、そして決断へ(5)
「――この地は、最も邪神の気配と魔力が強い場所。それは、他の結界が張られた地とはケタ違いといってもいいだろう」
ダレス様は、ゆっくりと話し始める。ティアは静かに、その内容に耳を傾けていた。
「他の場所には、器となる入れ物だけが封じられ、邪神の力も弱いため結界を張り直すのもそれほど難しくはない。だが、ここには邪神の本体ともいえる『魂』が眠っている。あのクロノスという男は、この地にて邪神の復活を企んでいるようだな。もし今回、再封印が失敗し結界が破られた場合、眠りから覚めた邪神は明確な意志を持ち、お前が結界を張り直した場所も含め、全てを食い破り自らの力を完全に取り戻すことになる。そうすれば、まずこの国は手始めに滅ぼされるだろうな」
「そ…そうだったんですね…」
「あの犬っころのやつ。こんな重大なことまで、聞いてねえぞ!」
「ん? フィヌイは説明していなかったのか……?」
ティアはコクコクと首をたてに振り、ラースは不機嫌に頷いたのだ。
「そうか。まあ…下手に説明しても混乱を与えるだけでフィヌイなりに考えがあり、あえて黙っていたのかもしれん。それとも、いつものように説明したつもりが話すのを忘れていただけか……どちらとも俺には言えんが……」
さんさんとした口調でダレス様は話していたが、ティアは後者の可能性のほうがひじょうに高いと冷静に分析していた。
なぜなら、ティアの頭の中では子狼の姿をしたフィヌイが、
――ごめん! 言うのすっかりと忘れてたよ。と言いながらいつものように可愛く小首を傾げ、ふさふさの白い尻尾を、ふりふりている光景が浮かんだのだ。
まあ…いつものことだしなんとかなるだろう…とティアはなぜか、不思議と気持ちが落ち着いていくことに気づいたのだ。
たしかに話さないほうが私の場合、必要以上に緊張しなくて良かったのかもしれない。そう思い直したのだ。今まで張りつめていた気持ちをほぐしてくれた、心の中のフィヌイ様に私は感謝をしたのだ。