神々の取り決め
「アリアは…?」
「大丈夫。眠っているだけだよ」
かなり心配しているラースの言葉に、ティアは穏やかに答えたのだ。
「そうか…。あいつには本当にすまないことをしたと思っている。もし俺が傍にいれば、誤った道に進むのを止められたかもしれないと悔やむこともあったが。あと…そのお前に礼を言わなければいけないな。アリアを助けてくれてありがとう。ティア、お前には感謝してもしきれない。そして、本当にすまなかった」
ラースは深々とティアに頭を下げていた。
「私は大丈夫だよ。ラースが悪いわけじゃないし…あんたらしくないってば。それに、なんとか治癒魔法が間に合ってよかった」
ティアは、額ににじむ汗を拭いながら笑顔を浮かべていた。
ふう…でも正直危なかった。フィヌイ様のタリスマンがなければ、ここまで大きな魔力を使った治癒魔法は使えなかったかもしれない。
ティアが今使ったのは、聖女の治癒の奇跡ではなく一般的な治癒魔法。一般的な治癒魔法についてはフィヌイから前に教えてもらっていたのでティアは扱うことができていた。
フィヌイ様が封印されている状態では聖女の力は使えないと考え。ならば、フィヌイ様の神力が宿ったタリスマンの力を借りることができれば、もしかしたら…治癒魔法そのものが増幅され治癒の奇跡に近いものが使えるかもしれないと思ったのだ。
完全な賭けだったが、上手くいって良かった…。
それに、治療に入るタイミングが少しでも遅かったらアリアさんは助からなかったかもしれないし、運に助けられなんとか間に合ったというべきだろうか。
でも……気がついたら、身体か勝手に動いていたのだ。
どんな人でも、やっぱり目の前で人が不幸になるのって嫌だし、そんなの見たくない。私って…かなりの馬鹿なのかもしれないけど、それはそれでいいよね。そう思いながら、ティアは息を吐いたのだ。
そんなことを考えていると、ダレス様が近寄ってくる気配がした。彼はなにやら呟き、アリアにむけ手をかざすと彼女は白い光に包まれる。
「この女のことは心配するな。今、守りの結界を張っておいた。それよりも、フィヌイを取り戻すことを考えるんだ」
「はい」
ティアはダレスの言葉に迷わず頷いたが、ラースは納得していない様子で疑問をぶつける。
「なんでだ……? あんた神なんだろ。あんたが動けば、あっという間に解決するんじゃないのか?」
「もっともな意見だが、俺はこの世界の理により神として力を振るうことを制限されている。フィヌイもまた同じ」
「……邪神は例外か」
「そうだ。この地上は人が住まう地ゆえ。神々の取り決めにより、地上に残る神は本来の力を制限される。ただし、手助けを行う程度ならば力を振るうことはできるがな」
「つまり、多くは期待するなってことか……。たしかに、考えてみれば筋は通ってはいるか…」
「ねえ、ラース。フィヌイ様は完全には封印されたわけじゃないよ。ただ眠っているだけ。だからきっとフィヌイ様をあいつから取り戻すことができれば状況も変わるし、結界を張り直して邪神の再封印も成功するはずだよ」
「確かに…最もフィヌイの加護が強いお前なら、仮死状態のフィヌイを目覚めさせることができる。フィヌイと共に結界も張り直せば、奴はそれ以上の手出しはできないはずだ」
ダレスの言葉にティアは希望が見えてきたが、そこで――
「…どうでもいいですが、そろそろ話はまとまりましたか? こちらは待ちくたびれてしまいましてね」
かなり余裕があるのだろう。クロノスは嘲笑うような声が聞こえたのだ。
「ああ、まとまった。その余裕すぐになくしてみせるがな」
そして、なぜかラースは不敵な笑みを浮かべたのだ。