道化を演じたもの ~後編~
「邪神の魔力が込められた『魔石』――あの御方の、神力が込められた魔石を使い作られた腕輪を試しに使ってみたのですが、副作用がかなり強かったみたいですね。あなたで試して正解でしたよ」
「なんですって…!」
「私の願い…フィヌイを封印するという願いを叶える代わりに、腕輪の使用者の魔力と生命力を根こそぎもっていく。あなたの命の灯も、もうすぐ消えさるでしょう。さぞ疲れたことでしょう。後はゆっくりとお休みください」
「こんな…ことって…」
クロノスの言葉に目を見開くと、そこで初めてアリアは自分が利用されていたことに気づいたのだ。
結局は道化を演じていただけなんて……悔しさで、涙がでてくる。聖女である自分に執着した結果がこのありさまだ。
子供の頃の自分を助けて、ずっと傍に寄り添ってくれたフィヌイ様を封じてしまった。今考えれば、最も自分を案じてくれていた大切な存在に、恩を仇で返してしまったのだ。
悔やんでも、もう取り返しがつかない。このまま私…死んでしまうの……。
意識を失い始めた頭でぼんやりとそんなことを考えていたが、ふいに温かい光が見えたのだ。
目を薄っすら開けると、そこにいたのはティアとラース兄さん……?
あの娘は必死になって私に回復魔法をかけている。兄さんは心配そうに少し離れたところから私の顔を覗き込んでいた。
そうティアは、アリアが倒れ意識を失った瞬間――すぐに駆け寄ると、迷わず回復魔法をかけ始めたのだ。ラースはそんな二人を見守るように傍に立ち、ダレスは明かりの範囲をアリアの位置まで広げていた。
もちろん、クロノスの動きには注意をはらいながら――
「やめてちょうだい。私はあなたが助けるには値しない人間なのよ。フィヌイ様を封印してしまった。お願いだから…このまま死なせて……」
「――嫌です! フィヌイ様がいれば、必ずあなたを助けたはず。それに今度は悲劇のヒロイン気取りですか? もし間違ったことをしたと思ったのなら、生きてしっかりと償ってください。このまま死んで楽になろうとしてるなら、私はあなたを絶対に許さない!」
「……!」
ティアの迫力に、アリアは唖然とし言葉を失うしかなかった。
「あなたは、独りぼっちだと思っているのかもしれない。けど…お兄さんのラースやフィヌイ様はあなたのことを心配している。本当にあなたの幸せを願っているのに……そんな大切な人たちの心を踏みにじるつもりなら私はあなたを許さない。それにクズ王子のルシアスのことを、今でも慕っているのかもしれないけど…あなたを心配してくれる優しい人たちに目を向けて! 私の大切な人たちが悲しむ姿なんか見たくないの。そんなのつらいし心が痛むから、だからお願い! 生きて…」
「わかったわ…」
アリアはぽつりと呟くと、フィヌイと初めて出会った頃を思い出していた。
あの時と同じ優しい光に包まれていると感じていたが…やがて、静かな寝息をたて深い眠りへと落ちていったのだ。