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道化を演じたもの ~中編~


 あいつは――クロノスは、アリアの影の中から姿を現したように見えた。

 つい先ほどまで、周りに人の気配などなかったはずなのに…俺としたことが完全な見落としだ。ラースは唇をかみしめる。


 アリアに気を取られ、油断していた。

 不測の事態に備えるべきだったのに…おそらくアリアを媒介にして、何らかの魔法でこの場に転移したのではないかと推測できるが…


 しかしあの犬っころ――! 神のくせになんであっさり捕まるんだよ! と文句のひとつも言いたくなるが、今はそんなことをいってる場合じゃないか。

 とにかくあの、フィヌイを取り戻すことが先決だ。


 ティアを見れば、あいつは泣くのを必死でこらえながら、黒い繭のかたまりに閉じ込められてしまったフィヌイを取り戻そうと、懸命に手を伸ばしていた。

 だが、アリアの手のひらに浮いている黒い繭に手が届くことはなかった。


 なぜなら、その前にクロノスがティアの指が繭にふれる寸前に奪い取り、その場から舞い上がると俺たちから遠く離れた所に着地していたのだ。


 「フィヌイ様を返して―!!」

 「よせ!! 灯りの範囲内から外に出るなと言っただろ! 瘴気の影響を受けるぞ」


 ティアの悲鳴にダレスの声が重なる。


 そしてフィヌイを封じ込めた張本人のアリアは、腰を抜かすようにその場に崩れ落ちていた。

 右手首にはめていた銀色の腕輪は、その瞬間まっぷたつに割れ、黒い砂となりそれも消えていく。


 「なんなの…。話が違うじゃない……!」

 「さて、なんのことでしょうか?」

 「とぼけないで! フィヌイ様を助けるために力を貸してくれっていったじゃない。なのにフィヌイ様の神力が消えてしまった……。それに、あなたに言われた通りあの腕輪を使ったわ。でも、そのとたん生命力がどんどん吸い取られていくみたいに、身体から力がぬけていくようだわ。あなた、私を騙したのね!!」

 「いいえ、真実は伝えましたよ。ああ…でも、伝え忘れたことがあったかもしれません。私が話した内容を、貴女がどう判断したかまでは、知りませんがね」

 「フィヌイ様を、私に返してくれるんじゃなかったの……?」


 「フフフ、道化にしては役に立ったほうだと思います。なにせ、あなたのお陰でフィヌイは油断してくれたんですから、本当にありがとうございました」


 キッと睨みつけてくるアリアに動じることなく、黒いローブを纏ったクロノスはアリアを見下ろし冷笑をすら浮かべていたのである。

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