大切な存在だから
「な、なんですて~!! この見るからに間抜けそうなのがフィヌイ様! う…うそよ。フィヌイ様はもっと高貴で威厳もあって、品性に満ちあふれたお方。こ、こんな頭の悪そうな犬が…フィヌイ様だなんて、あ、悪夢だわ……ぶつぶつ」
なんだかよくわからないが、後半ではぶつぶつ呟きながらもアリアさんはショックを受けているようだ。どうやら、自らが思い描いていた理想とかなり違ったみたい。
……今までこんな人を怖がっていたなんて、なんか馬鹿みたい……。ティアは冷静な感想が頭に浮かんでいたが。
いや、今はそう言うことじゃなく! もふもふのフィヌイ様が馬鹿にされたのだ。ここは反論しなくては私の気がおさまらない!
フィヌイ様だって私の腕の中でぴくぴくとけいれんし、頬をぷう~と膨らませ何か言いたそうな顔しているではないか。
「アリアさん、失礼なこと言わないでください!! いくら前聖女とはいえ、言って良いことと悪いことがあります! フィヌイ様のどこが、頭がすご~く悪そうな間抜け顔なんですか――! そこに隙があり、おまけにもふもふとして可愛いところがまた良いんじゃないですか!」
「私……そこまで、けなしていないわよ」
――ティア、僕のこと嫌いなの――! それほめてないよ!!
子狼の耳をしゅんとさせ、ウルウルした目で私の顔を見て泣きそうな顔でフィヌイ様は必死に訴えてきたが、
私は、自信満々に――
「もちろん、褒めているんですよ。けなしてなんかいません! どんな姿をしていてもフィヌイ様のことが大好きだって私は言いたかったんですから!」
――ティア……ありがとう!! 僕もティアのこと大好きだよ!!
ひしっと小さな肉球でフィヌイはティアに抱きつくと、ティアもきゅっと抱きしめたのだ。
だが、そのすぐ近くではなんともいえない生暖かい視線が注がれていた……。
「なるほど…。あのフィヌイの感情をここまで揺さぶるとは、あのティアという娘、ある意味ただものではないのかもしれない」
ダレスがぼそっと呟いた言葉に、ラースはなんと突っ込んでいいのか解からず微妙な顔をするしかなかった。
一方、アリアはポカーンとしながらその様子を見つめることしかできなかったのである。