~閑話~ 選ばれし聖女(3)
聖女の地位を剥奪された事実は、神殿内にすぐに広まってしまった。
始めはなんとか隠し通そうとしたが、外出していた神官長が戻るとそれも難しくなってしまい……
神官長は魔力が高く、フィヌイ様の神力を僅かではあるが感じ取ることができる存在だ。
だが大多数の神官たちはそれなりの魔力しかもっておらず、そこら辺の民とさして変わりはない。私が神託だと強気にでれば、すんなりと通ってしまうくらいちょろい連中なのだ。
その神官たちも、多くは魔力自体もそれほど高くはなく、学院で魔法を学んでもせいぜい中位の治癒魔法をなんとか使える程度。蓋を開けて見れば、裕福な家の子息や家を継げない貴族の次男などが楽に勤められるからと神官になるものが多いのが現実。
本当に民の為に神官になった者がどれほど少ないことか、ここに来てよく分かったくらいだ。
話はそれてしまったが、本当に神の力を感じとれることができるものは稀にしか存在しない。
私の兄のように強い魔力を持っていることが前提で、そのうえで更なる鍛錬を行い、そこでようやく神力を探知できる能力が身につくらしいが…私は神官長ぐらいしか見たことがない。
現在そんなことができる神官は、神官長を除けば救護院にもう一人いるくらいだとは噂では聞いてはいるが……この神殿の下部機関にあたる、救護院にいるものがここに来ることなどまずありえない。
ならば、神官長さえどうにかすればいい。
その神官長はいつも私の言うことならなんでも聞いてくれる。当然、今回だって味方になってくれると思っていただけに――油断していた。
まさか、こんなにもあっさりと当てが外れるなんて……
神官長は聖女の資格を剥奪された私を見るなり、フィヌイ様の加護を無くした者など用はないと言わんばかりに、蔑み罵倒を浴びせ、冷たい目を向けてくるではないか。
さらには追い打ちをかけるような出来事は続く…。
天赦祭が終わったその日の夜のこと。たまたま神官長が他の神官と話しているのを耳にする。それは聖女でなくなった私をいつ追い出すかを相談していたのだ。
このままではここを追い出され、辺境の女子修道院に送られてしまう。
そうなれば辺境の女子修道院だけにとどまらず、国中で聖女の資格を剥奪された娘としていい笑いものになってしまう。そんな屈辱、耐えられるわけがない!
――追い出される前に、私は気がつけば神殿を飛び出していた。