~閑話~ 選ばれし聖女(1)
――私は、辺境にある小さな村で育った。
両親を早くに病で亡くし、たった一人の兄と共に支えあって生きてきた。
生活は貧しく厳しいものだったが、それでもとても幸せだった。
だって、村の人たちは両親を亡くした私たちにとても良くしてくれるし、兄は不器用なところもあるけど本当は優しくって私をどんな時も気遣ってくれる。
それにこの国の主神であるフィヌイ様が、いつも私たちを見守って下さっているのだ。この村には小さな祠があり、そこにはこの国の主神であるフィヌイ様の像が祀られている。
私はいつも村の人たちの畑仕事を手伝う前に、兄さんや村の人たち、この国の人たちが少しでも幸せに暮らせますようにとお祈りするのが日課となっていた。
まだ、小さな私にできることは今はこれくらいしかないけれど、少しでもみんなの助けになりたいと思い毎朝フィヌイ様の像の前でお祈りするのだ。
早く大きくなってみんなの役に立ちたいな。今はささやかなことしかできないけれど、少しでも恩返しができるようにと私は思ったのだ。
だがそんなある日、日常は一変する。
突然、強烈な突風が私たちの住む村を襲ったのだ。強い風が家々を吹き飛ばし、作物もほとんどが駄目になってしまい…
そして、たった一人の家族である兄さんが、なぜか王都からやってきた騎士様やローブを纏った人たちに連れていかれたのだ。
それが、とても強い魔力を持つ人間が起こす暴走だと知ったのは、もっと大きくなってからである。
だがその時の私は、なにがなにだかわからずにただ泣きじゃくるしかできなかった。
その日を境に優しかった村の人たちが、私に対しよそよそしくなり冷たい目を向けるようになったことは今でも覚えている。
誰の助けもない状況で小さな子供がひとりで生きて行くことなどできるわけもなく、私は毎日お腹を空かせながら、途方に暮れていたのだ。そんな日が数日続き、意識がもうろうとなっていた時。
ふと空を見上げると、きれいで真っ白な鳥が私の前に降り立ったのだ。
本当にきれいな鳥で、私は思わず見惚れてしまっていると頭の中に、もう大丈夫だよと優しい声が聞こえてきたのだ。
その声に凍えるように寒かった私の心が温かくなっていったのを今でも覚えている。
それが私こと『アリア』と、フィヌイ様との出会い。
程なくして、王都の神殿から偉い神官様たちがやってくると、主神フィヌイ様の神託により私が次の聖女様に選ばれたことを知ることになる。
――私が10歳になる初夏の出来事だった。