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迷いの心


 いつの間にかダレス様は、ランプを取りだすと灯りをつけていた。

 理屈はわからないが魔力を秘めた光りのようで、私たちの少し先まで周りを淡く照らしている。


 「この灯りの範囲内であれば、悪しき物も近づくことができない。…くれぐれも灯りを離れての単独行動は控えることだな。さもなくば、この辺りを永遠に彷徨うことになるだろう」


 それだけを伝えるとダレス様は歩きだしていた。

 聞きたいことはもちろん山のようにあるが、今はその時ではないと感じティアは黙ってついていくことにする。


 そして私たちは、導かれるまま隠し通路のようなところを歩き始めた。しばらく歩いているとやがて回廊はなくなり、地下へと続く螺旋階段を降りはじめたのだ。


 今のフィヌイ様はというと、通路が狭くなってきたこともありいつもの子狼の姿にもどっていた。そしてなぜかはわからないが、気がつけば私が抱っこするはめになっていたのである。



 思い返せば……あれは隠し通路を歩き始めてすぐのこと。

 フィヌイ様はウルウルした瞳で私を見つめ、疲れて歩けないから抱っこをしてと、もふもふの体をすりすりおねだりをしてきたのだ。

 結局私はあまりの可愛いさの心を打たれ、さらにはもふもふ攻撃に負けしてしまい、現在に至るわけだが……そのフィヌイ様というと、今は私の腕の中で気持ちよさそうに目を細めている。

 耳をたらんとふせて、らくちん、らくちんと言わんばかりにくつろいでいるのだ。


 まあ、話が横道に反れてしまったが……今現在、歩く順番としては、私を真ん中に挟むようにして、先頭はダレス様、最後尾にはラースがついてくれている。


 私は後ろを歩くラースがどうしても気になり、思わずチラッと見てしまう。

 このところ、あいつが私と距離を置くようになったこともそうだが、なんだか元気がないことも気になっていた。


 いつもなら、おまえ聖女なのに食堂の全メニュー制覇してどうするんだ! 目立ちすぎだろうが――!! とか、お前が聖女じゃこの世界はもう終わったな……。など、とにかく癇に障る嫌味をいつもなら言ってくるのにそれが最近ではぱったりとなくなっていた。


 最近では、しょっちゅう難しい顔で考え事をしていることが多いようだし、なんだか調子が狂ってしまうのだ。これでは、こっちまで気がめいってしまう。

 今日の朝食なんか、食が細くなりすぎてたった一人前しか食べれなかったし……とそんなことをもやもや考えていると、


 ――ティアったら、眉間にしわが寄っているよ。


 突如、フィヌイ様に声をかけられ私はびくっとする。そして、ほんとうに眉間にしわができているのではないかと、手をあて慌てて確かめたのだ。


 ――フフフ……大丈夫。ティアのお肌はピッチピチで、しわなんて寄ってないよ~!

 「フィヌイ様……」



 だがフィヌイ様は真面目な眼差しで、私の腕の中ではきゅるんとした愛らしい表情のまま、私の顔をじーと見上げてきたのだ。


 ――大丈夫だよ。ティアだったら乗り越えられる。たとえ何があっても……

「な、ななんのことですか~」


 私は心を見透かされているような気がしてとっさにとぼけてみるが、フィヌイ様は尻尾をふりふり優しい眼差しのまま、


 ――相変わらずティアって、わかりやすいし面白いよね! そういうところ僕は好きだよ。

 「フィヌイ様…ありがとうございます…! なんか…らしくないですよね。今までうじうじ悩んでいたけど、最終的には、どうにかなるような気がしてきました」


 フィヌイの言葉にティアに笑顔がこぼれる。フィヌイは満足そうにそれだけを伝えるとまた、ティアの腕の中に顔を埋めたのだ。

 いろいろと考えすぎてしまったが、その言葉になんだか吹っ切れたようだ。フィヌイ様の温もりが、私を勇気づけてくれる。

 今までとは少し違う気持ちで、私は地下へと向かう暗い道を、前を向き歩き始めたのだ。


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