僅かなすれちがい
――もう、返事がないから心配したんだよ。
フィヌイ様は、ぶるっと震えいつもの子狼の姿になると、私の顔を覗き込んだのだ。青い瞳が夜空のようできれい。やっぱり、ちっちゃいフィヌイ様も可愛いなあ。
「はははっ…すみません。その、ちょっとぼんやりしてまして…」
――それならいいけど……怪我とか大丈夫。どこも痛くない?
「はい! 着地がよかったのでどこも痛くないですし、大丈夫ですよ」
――それにしても、ダレスったら~! ちゃんと説明しないとティアが危ないじゃない!
「フィヌイがいるから大丈夫だと思った……。それにフィヌイが選び、鍛えた人間だろうが。十中八九死ぬことはないと思ったが、説明が必要だったのか?」
え…! なんか私の扱い雑なような気が……淡々としたダレス様の口調にちょっと衝撃を受けてしまう。
それってつまり、フィヌイ様に鍛えられているから大丈夫だと思ったってこと。確かに箱入り聖女じゃないけど…なんか地味に傷つくなあ。
――う~ん。確かに僕が直接指導しているけど……そういう対応能力に関しては、まだティアはいまいちなんだよね。だからダレスも、今度からはそこそこ気をつけてよ。
「だが、なんとかなっただろう。落下しているその娘を、その男が抱き上げお前に預けたのだからな」
ダレスの言葉にティアはハッとする。
そうか! ラースの奴が、私を最初に受け止めてくれたんだ。思わずあいつに視線を向けるが、あいつは私たちとは少し距離をとってそっぽを向いている。
なぜだかわからないが、ティアの心がチクリと痛んだのだ。
ただ、周りを警戒しているだけかもしれない。けど、あいつとの距離が最近、遠くなったように感じる。
ちょっと前までは、気兼ねなく話ができてとても楽しかったのに……。
密偵だから仕方がないのかもしれない…。頭ではわかってはいるのだ。そのつもりだが、どうしてか自分でもわからないが、今はなぜか悲しくって仕方がなかったのだ。