緊急時の癒し
その瞬間、床がなくなったのがはっきりとわかり…
ふわっと体が浮き上がったかと思うと、急激な勢いで落下していったのだ。
「ぎゃぁああ――!!?」
空を飛べるわけでもないし、このままでは確実に地面に衝突すると思い、悲鳴を上げながら私は固く目を閉じる。
だが予想に反し、ふと誰かに抱きかかえられたかと思ったとたん、荷物のようにぽおーんと放り投げられ、もふっとしたクッションような床に着地したのだ??
ん? ……何となくだがそんな気がした…
私は、恐るおそるだが目を開けてみると、そこは真っ暗な通路の中のようで。
――天井を見上げれば、石の扉、いや床みたいなのが静かに閉まっていくところだった。
少し冷静になった頭で考えてみると、どうやら今まで立っていた床が突然なくなり、落とし穴に落ちたようだ。ざっと見繕っても天井までの高さは少なくとも15メートルぐらいはあるだろうか……
それにしてもダレス様――!! せめて一言ぐらい、いってくれればいいのに。心の準備だってあるのに貴方はいったい何を考えているんですか!
と心の中でティアは目を吊り上げながら苦情をいってみる。
この神様が、ほぼ喋らないことはわかってはいるが、さすがに怪我したり、人生ここで終了したらどうするのかと苦情のひとつでも言いたくなるものだ。
そして実際に言おうかと心に決め、口を開いたとき…ふとかけられた声に思考は中断する。
――ティア、大丈夫。
気づかわしげなフィヌイ様の声だ。
我に返り周りをよく見てみると、そこには久々に大きな狼の姿になったフィヌイ様の姿。私は、その背中の上にいた。
そういえば、この高さから落ちて怪我一つないのは……なるほど、この最高級なフィヌイ様ご自慢の毛並みこと、もふもふクッションお陰だったのか。
うふふふふっ……このもふもふの手触り至福の時間。私のささくれた心に、もふもふの癒し染みこむようだわ。
――ティア、ティアったら!
「は! …ええ、なんとか。でもここは一体どこなんでしょう」
再び声をかけられ我に返ると慌てて返答する。受け答えが変だったかもしれないが、つい自分の世界に入ってしまったのは内緒にしておこう。