青い瞳
今日は、朝の空気がとても澄んでいた。
夜のうちに雨が降ったようで、少し肌寒い気もするがとても清々しい気分だ。周りを見れば、石畳のあちらこちらに水たまりができているしとても綺麗。
「結局、救護院を出たの予定より遅くなっちゃた・・」
――かえって、このぐらいの時間の方がちょうどいいよ。ティアだってしっかり朝食とっていたものね。
「うん、朝ごはんも美味しかった!それにフィヌイ様。だされた食事に手をつけないなんて失礼ですよ!」
――そ、そうだね・・
なんとも言えない表情で子犬姿(?)のフィヌイは、ぼそっと呟いたのだ。
「でも、今日は人通りが多いですね」
――昨日は天赦祭だったからね。遠方から来た人達は、一泊して今日の朝に帰る人が多いんだよ。
「なるほど、これだけ人が多ければ東の大門もすんなり通れそうです。けれど・・」
衛兵が多い大門を通るには、目立つ要素は少しでも減らしておかないといけないとティアは考え、
そして、フィヌイにチラッと目をやると、
「フィヌイ様、ちょっと失礼しますよ」
と言い終わらないうちに、
よいしょっと、見た目は子犬のフィヌイを抱きかかえると肩掛けカバンの中にそっと入れたのだ。
フィヌイはカバンの隙間から顔だけをちょこんとだしている。
――どうしたの、いきなり?
ティアは口元に握りこぶしをあて、コホンとワザとらしく咳をすると、
「フィヌイ様・・。あなた様の姿は、青い目と白い子狼の姿とは言え目立ちすぎます。東の大門を通過するまで、このままの姿で我慢していただけないでしょうか?」
――・・? 別にいいけど、門をくぐるときだけカバンの中に隠れるってことだよね。
「はい、ありがとうございます!」
もっともらしいことを言ったが、ただ単にカバンから顔をだすフィヌイの姿を見たかっただけだ。
可愛いだろうと思いやってみたが予想以上に可愛すぎる!
神様に対し不純な動機ではあったが、想像以上に可愛く大満足のティアだった。
――僕は良いとして、ティアはどうするの。
「私ですか・・?」
――ひょっとして、気づいてないの。試しにそこの水たまりに顔を映してみなよ。
言われた通り路地の奥に行くと、水たまりに自分の顔を映してみる。
いつもと同じ見慣れた顔に焦げ茶色の長い髪。
そして、透けるように綺麗な青い瞳――。
「青い瞳って・・?」
私の目の色は榛色だよね。
見間違いかと思いもう一度水たまりに自分の顔を映してみたが・・
「そういえば忘れてた!聖女の瞳は青色になるんだった・・!」
その場にティアはへなへなと座り込む。
もしかして救護院にいるときから目は青かったとか・・
――その時はまだ水色だったよ。少しずつ青くなっていったからほぼ誰も気づいていないよ。あ!でもアイネだけは気づいていたみたいだね。
「先生・・気づいてたの? なにも言われなかったけど・・どうしてなんだろ」
――孤児院にいたときから、ティアのこと知っていたんでしょ。わかっていながら黙って送り出してくれたんだよ。まあ、神殿の奴らより信頼できるから下手に誰かに言うことはないし大丈夫!
ちなみに僕が神だってことも薄々気づいていたみたいだね。もとは魔力の強い家系出身だし、神力の動きも察知できるからね。
「先生のことは私も信頼しています。それよりも、この瞳の色・・何とかならないんですか~」
――別にいいんじゃない。このままでも、僕とお揃いだよ。
「明らかに目立ちすぎるんですよ~」
――ええ~ 仕方ないな・・。
フィヌイは口の中でぶつぶつとなにやら唱えると、ティアにもう一度水たまりに顔を映すように促す。
ティアは恐るおそる顔を映すと、今度は瞳の色は薄い水色になっていたのだ。