太古の遺跡
神話の時代から存在していたという、白亜の石で造られた太古の街がそこにはあるのだ。
今は建物の風化が進み、ところどころが崩れ、古の時代の名残を僅かに残すのみ。現在それらは遺跡となり、セピトの街の観光地のひとつとなっていた。
遺跡では、ところどころ観光客らしき人の姿を見かけるが――それを気にする様子もなく、ダレス様は観光客が立ち入らない、風化の進んだ遺跡の奥へと慣れた足取りで進んでいく。
もしかして…はた目から見れば、立ち入り禁止の区域内に堂々とした足取りで進んでいく姿に、遺跡の管理を行っている関係者かと、周りにいた人たちは思ったのかもしれないが…。
つまりどういうわけか、不思議と近くにいた人たちは誰も私たちの行動を不信に思う様子すらなかったのだ。まるで、私たちの姿など見えていないかのように。
やがてダレス様は、風化がかなり進んだとある遺跡の中へと入っていく。
そこは他の遺跡とは違っていた。
建物の中に入れば神々の彫刻が回廊に沿って並んでいる。どうやら昔は多くの神を祀る神殿だったのではないかとティアは推測したのだ。
現在、このリューゲル王国では初代国王に加護を与えたフィヌイ様を主神として祀っている。だが、善き神であればフィヌイ様と共に他の神々を崇めることも許しているのだ。
たとえばこのセピトのように――セピトは鍛冶師が多く集まる街だ。鍛冶師たちは自分たちに近く、守護を与えてくださる神様を自然と崇めるようになるもの。
つまりこのセピトの街では、国が主神と定めるフィヌイ様と共に――鍛冶と鉱物を司る神ダレス様を篤く信仰されているのだ。
そう、リューゲル王国では緩やかな一神教の体制が敷かれているが――これは主導権は王家が握るが、他民族に対しても寛容であることを示していた。
だが古の時代では、多神教が当たり前だったのではないかと、同列で並んでいる神々の彫刻を見ていると、容易に想像ができるのだ。
そんなことを考えながらぼーと歩いていると、神様たちはいつの間にかはるか先で足を止めていた。
子狼の姿をしたフィヌイ様もプウーと膨れ私たちが来るのを遅いよ! と言わんばかりに、ダレス様の隣で待っている。
そういう姿のフィヌイ様もまた可愛いだよねと、また思考は脱線してしまうが…
さすがにティアも、神様たちを待たせては失礼だと思い、慌てて小走りでフィヌイたちの元へ駆け寄っていく。ラースは何も言わず、ただティアの後からをついていくのみ。
やがて私たちが傍に来たのを確認すると――ダレス様は近くの円柱にそっと手を置いたのだ。
そこで初めて、ここは神に祈りを捧げる祭壇の間であることにティアは気づいたのだ。
神殿の奥にある祭壇近くの若葉の彫刻の柱に、ダレス様がすっと手を置いたと思ったとたん、私の視界は突如、暗転したのだ。