予期せぬ出来事
――彼は、密かに調べていることがあった。
セレスティア殿下への定期的な報告とは別の案件として、もちろんティア達には黙ってだが…そしてあの工房にいるとき、ふいにノアが戻ってきたのだ。
なぜこのタイミングで戻ってきたのかと、内心焦りはしたが顔には出さないよう努める。
神には見透かされているかもしれないが――ティアが見ているからだ。
フィヌイの奴は相変わらず緊張感のないの呑気な顔をしているが、ダレスにいたっては、じっとこちらを見ている。その表情からは、なにを考えているのか読み取ることはできない…。
そして肝心のティアは、へえ~ いつ戻ってきたのか全然気がつかなかったよ…とこれまた緊張感のない、ほけーとした顔でこちらを見ていた。
どうやらティアには、怪しまれてはいないようだ。そうとわかり、ラースは心の中で胸を撫でおろす。
なにしろ今回に限っては、いつもの定期連絡とは違い、ティア自身に関する詳細を調べてもらっていた。
その結果を持ってノアが戻ってきたのだ。――間違っても感づかれるわけにはいかない。
後日――その時のことをノアに聞いてみると、本当は時間をおいて戻るつもりだったが、気がつけばそこに引き寄せられていたと申し訳なさそうに話していた。
つまりは、全て知っているんだぞ―! というあの犬っころの俺に対する、牽制であり忠告なのか…。
もちろんあのフィヌイの犬っころのこと。俺が、ティアについて調べていることに気づいている…。そして、こちらがティアに敵対するようなことがあれば、あいつは容赦なく牙をむくだろう。
俺も、そうならないことを願うばかりだ。そんなことなど本当は望んでなどいない!……だが、今までの苦い経験から、状況により非情な判断をしなければいけないことも知っている。
そして今日、あの工房にてフィヌイたちの会話の中から掬える情報があった。
やはりと言うべきか――ティアが生まれつき、強い魔力を持っていた。それも、地属性魔法の潜在能力がかなり高いことが読み取れたのだ。そのことに強い確信を持てたのだ。
王都から戻った、ノアの報告を合わせると…もしかしたら当たってほしくないが予感が、的中してしまうかもしれない。
ここから先の未来、どう変わっていくのだろうか? もしかしたら、ティアは俺のことを恨むかもしれない。……それでも、決着をつけねばならないと彼は決意を固めたのだ。
その答えから導き出される答え――ある属性魔法を受け継ぐ家柄がラースの頭に浮かんでいたのだ。
気がつかないうちに、ラースは手を強く、白くなるまで握りしめていた。その様子を鳥の霊獣ノアは、心配そうに見つめていたのだ。