変化の兆し
ちょうどその頃、ラースはノアの報告を聞き、物思いにふけっていた。
成り行きで聖女の護衛としてティア達と行動を共にしている彼だが、それも終わりに近づいている、そんな予感がしたのだ……
彼は本来、この国の第一王子である王太子セレスティアの密偵として働いている。これが彼の役割――いや正確には、捨て駒として貴族に使い捨てにされていたのを気まぐれに拾われ、そのままここで働いているだけか…
だがこの王太子に言わせれば、才能がある人材をみすみす使い捨てにする貴族のほうが、間抜けとしかいいようがない。――そう、呆れたように言っていたのを今でも思い出される。
どうやらこの王太子は、聡明とはいわれているがかなりの変わり者らしい。
もともと王家に仕える密偵は、魔力に秀でた専門の家柄から選ぶことが慣例となっていた。
だがどういった気まぐれか、この王太子は使い捨てにされたラースを密偵として傍に置き、重要な任務を任せるようになっていた。なぜかは理由はわからないが…
そんなラースも、不思議とセレスティアを裏切ろうとは思わなかった。
理由としては単純で、彼より仕えたいと思える人物がいないこと。そしてなにより、この王太子の傍でこの国の行く末を見てみたいと思えたからである。
それゆえ、彼はティアに全てを話してはいなかった。あえて話していないといったほうが正確だろうが。
だが、主神フィヌイはもちろん除外とする…。あいつは普段は呑気な犬っころのフリをしているが、ああ見えてもこの国の主神。その実力は計り知れない。
その力の一端を、彼は身をもって知っている。そう実感した…。
今まで神の存在など信じていなかったが、これが神と呼ばれる者の力なのかと…
だが、一般的に想像している神ともだいぶ違う…まったく違うのだ!! と、とにかく本当にいたのかと彼は考えを改めたのだ。
話がだいぶ反れたが、つまりティアは俺の事情は何も聞かずにいてくれている。
もちろん、フィヌイの奴は俺のことを知っているようだが、どうやらティアには話していない様子。だが、あえてティアは聞かないようにしているのかもしれない。
おそらくあいつは、俺から話してくれるのを待ってくれている。もしかしたら俺を信じてくれているのだろうか? そのことに心が痛まないといえば嘘になるが…
――しかし、ラースにはそれよりも優先すべきことがあったのだ。