物思いにふける
なぜ、フィヌイ様は私を聖女に選んだのか――ふと考えることがある。
私は神殿の前に捨てられていた孤児だ。それに自分で言うのもなんだが特別…信仰心が篤いほうでもない。
フィヌイ様に関しては信仰心というよりも…なんというべきか、とても温かくって見守ってくれている優しい存在。
傍にいるとほっと安心できて、近くにいたいと思える存在なのだ。神様だとかそういうことは、たぶん考えてはいない。
なんと言えばいいのか…ただ、その温かい存在を近くで感じられる場所にいたくって、私は神殿で下働きとして働いていた。
私は貴族でもなければ、魔力の適正もかなり低く、神官になることもできなかった。そう、私にとってこれが唯一の方法だったのだ。
それに私は普通で地味な女の子だと思うし、私でなくとも…いかにも聖女にふさわしい娘はたくさんいたはずだ。
そんな疑問もあってか、ある日――私は意を決して、フィヌイ様に直接聞いてみたことがある。
すると、フィヌイ様は――
――もちろん、ティアだから選んだんだよ!
「…??」
なぜか、自信満々のどや顔で答えてくれたのだ。私は思わず目が点になってしまいよくわからなかった。
なんとも曖昧な答えしか返ってこなかったので、角度をかえ、あれやこれやと聞いてはみたがそれ以上は駄目だった。色々聞かれてめんどくさくなったのか、のらりくらりとはぐらかされてしまう。
やがて…時間の無駄だと私は悟ることになる。
いつの日にかわかるときがくる。そう思い、私はそのことについて考えるのは止めていた。
だが今日――フィヌイ様とダレス様の話を聞き、またそのことについて考えてしまう自分がいた。
さらには、私は生まれつき魔力が強かったのかもしれないということ。私自身、何者なんだろうということも含めて…
それに加え、果たして私に聖女としての責任を果たすことができるのだろうか。そんなプレッシャーもある。
なんか今までより、大変なことが起こりそうな気がするし…でもいくら考えても、同じことをぐるぐる回る、思考に陥ってしまうだけだった。
ええい、やめたやめたああ!! これではきりがない! もう、今はできる限りのことをするしかないと強制的に考えるのを止めることにする。
「すーぴーすー」
気がつけば、夜も遅い時間になっていたようだ。
私の膝の上には、静かな寝息をたて眠っている子狼姿のフィヌイ様がいる。宿のもてなしと食事をお腹いっぱい食べて満足したのだろう。
本当は偉い神様で、この国の主神だというのに、そんな風には全く見えないから不思議だ。
どこからどう見ても、ただの可愛い子犬にしか見えない。
フィヌイ様の真っ白な毛並みを見つめながら、私は背中を優しく撫でていた。やっぱりこうやって撫でていると安心する。
一生懸命考えても答えが出ないなら、いまを精一杯生きるしかないとティアは結論に至ったのだ。