鍛冶と鉱物を司る (1)
フィヌイ様はカバンから顔をだし、狼の耳をぴんと立てて決まったでしょ! という表情をしている。
本人はかなり自信があるようだが……
でも、フィヌイ様。可愛さだけなら申し分はないんだけど……冷静に周りの状況を見てみれば、何とも言えない微妙な空気が流れているんですけど…それになんか気まずいんだよね……。
それにフィヌイ様の子狼の目も、いつもは愛らしいアーモンドみたいな瞳なのに、今は三角形。……おまけに目もしょぼしょぼしているし、純白の自慢の毛並みも、いろんなところがはねて寝ぐせまでついている。
こんな状況でなければ、すぐにでもブラッシングをして最高のコンデションするため毛並みをふさふさにしてあげたいのに~!
つまり、完全に寝起きだってバレているのだ…。これでは寝ぼけて顔をだした、ただのワンちゃんだよ~。
親方なんかなんだコイツはって、目でフィヌイ様を見ているしどうしよう。フィヌイ様の愛らしいモフモフ攻撃は効かないようだし、かなりの強敵のようだ!
そんな状況でもフィヌイ様はよいしょっとカバンからでると、すぐ近くのカウンターの上にぴょんと跳び移ったのだ。そして、正面から親方の顔を見据えていた。
子狼姿のフィヌイ様と親方の距離はかなり近く、親方はカウンターの上に乗った小動物を追い払うわけでもなく、なぜがじっと見つめている。
「……?」
私は始め、あわあわしながらフィヌイ様と親方の顔を交互に見ていた。だが、ふとあることに気がついたのだ。
なんで、今まで気がつかなかったんだろう。なにか引っかかるような違和感を覚えていたのに……
――そろそろ、お芝居は終わりにしたら、ダレス。僕たちが来ること、わかっていたはずだよ。
「ふっ、そうだな。お前が連れてきた人間がどのような連中か気になってな。少し様子を見ていただけだ。確かに――お前たちが来るのはわかってはいたさ。街の者たちが、白い獣の姿をした御使い様が現われたと騒いでいたからな。また…厄介や奴が来たのかと憂鬱な気分になったものだよ」
「おい、どうなっているんだ…。こいつら知り合いなのか?」
少し混乱気味のラースに私はなんとなくだが、落ち着いた口調で告げる。
「たぶん、この親方もフィヌイ様と同じ存在なんだと思う」
「同じって、まさか…」
――さすがは、ティア! 僕の加護があるにしても、ダレスの正体を見破るなんて本当に成長したんだね!
フィヌイ様は目をウルウルさせると、尻尾を嬉しそうにぶんぶん振っていたのだ。