駆け引きのゆくえ
見習いらしき男の子は震えていた。
「な…! いえ、ですからこの工房は、装飾品の細工は扱ってはおりません。日用品の依頼しかお受けできないと…」
「変だな。お前、なんでそんなに焦ってるんだ。なにかを隠しているみたいに」
「……」
ラースの言葉に見習いらしき男の子は、口を引き結ぶと引きつったような顔をし沈黙したのだ。
ティアには何のことだかさっぱりとわからない。わかっていることといえば、ラースの奴が物騒な感じで目を細め、男の子を睨みつけていることぐらいか。
ただでさえ目つきが悪いこいつに睨まれたら、気の弱い人は確実に震えあがってしまうだろうに。まるで私たちがいちゃもんをつけに来た、嫌な客ではないか!
これでは、現在おやすみ中のフィヌイ様に迷惑がかかってしまう。そんなことは聖女として避けなければと、ティアは急ぎラースをひっぱり隅っこに連れていくと、小声で注意をする。
「ちょっと、何やってんのよ……! あの子に失礼でしょ。可哀そうに震えてるじゃない。できないって言うんだから仕方ないじゃないのよ」
「あのな…この工房に勝手に入っていったのお前だろ?」
「う! そ、そうだけど…ここだと思ったけど…でも違うような気もする……」
「俺は、お前とは別の意味で気になることがあるんだよ。なんか引っかかるんだよな。あの小僧… なにかを隠していやがる。俺はそれを確かめたいだけだ」
納得していないティアの肩をぽんと叩くと、ラースは再びカウンターへと戻ったのだ。
「悪いな…そんじゃ、話の続きでもするか」
ラースが近づいただけで、男の子は気圧されたように一歩後ろに引き下がる。
だがその時――男の子の肩に誰かが手を置き、ラースに対峙するように前へとでたのだ。
「カイル、ここからは俺が代わる。お前は工房の手伝いに戻るんだ」
「親方……! はい、ありがとうございます」
カイルと呼ばれた男の子は、ほっと安心したように、奥の工房へと戻っていったのだ。
「さってと…お客さん。おおかた、話の内容は聞いてはいたが……悪いが、うちは日用品しか扱っていないものでね」
炎のように赤い瞳が印象的な、がっしりとした身体つきの壮年の人物。オラオラ系の渋いイケオジがでてきたのである。