微かな違和感
扉を開けなかに入ると、来客が来たことを知らせる、鈴が鳴り響く。
室内は薄暗く来客用のカウンターがあるのみ。だがその奥からは明るい光がほのかにみえていた。
どうやらそこは工房になっているようで、炎のはぜる光やパチパチといった音。鉱石を叩くようなカンカンと小刻みの良いリズムが聞こえてくる。奥の部屋では、ざわめきと共に人がいる気配がしたのだ。
セピトの街の工房にはよくある造りで、店兼工房といったところだろうか。
来客を知らせる鈴の音に気がついたのか、奥の工房から見習いらしき男の子がカウンターめがけ小走りでやってくる。
男の子と言っても私より少し下ぐらいで、鍛冶職人の見習いにしては、なんだがほっそりとして気の弱そうな子だ。
……余計なお世話だけど、なんか心配してしまう。
鍛冶職人の世界って、気の強そうで大柄な人が集まるオラオラ系のイメージがあるから。
まあ、これはこの子が選んだことだし余計な心配だよね。私はついしょうもないことを考えてしまったが、ここでふと我に返るとあることに気づいたのだ。
あれ…もしかして、ここハズレだったかも。
ここだと確かにそう思ったはずなのに、なんか違う気もするぞ。どうしよう…急に不安になってきた。
まさか、あはははっ…と誤魔化し笑い浮かべやっぱり間違えましたとか言って、ダッシュで逃げるわけにもいか ないし、どうしようかな…
う~ん、と唸りながら考え込んでいると見習いらしき男の子は訝しげに声をかけてきたのだ。
「あの…お待たせしました。その…ご用件を伺いますが…?」
ええい、もう! ここは聖女として威厳を見せてやる。ティアは開き直るとはっきりした口調で、
「装飾品の細工をお願いしたいんですが、この工房で作って頂けないでしょうか! こちらで核となる宝石は持っています。あ、…でもちょっと特殊な青い石ではあるんですけど加工とかできますよね…」
その瞬間、男の子の表情が僅かにさっと変わる。ティアはまったく気づかなかったが、ラースはそれを見逃さなかった。
「あの…まことに申し訳ありませんが、こ、この工房は鍋とか農具などの日用品を作るところですので、今はその…お受けすることはできません。装飾品の細工でしたら表通りに、その手の細工を得意とする工房も多くありますので、そちらの方がよろしいかと」
「……」
う~ん、やっぱりそうなるよね。やっぱりハズレだったのかな…とティアが諦めて帰ろうとした時、ラースが横から口を挟んできたのだ。
「つまりは、装飾品の細工を得意としている。それも特殊な魔石でも扱える腕の良い…名人クラスの職人がここにはいるってことだな!」
ラースは容赦のない鋭い視線を、見習いらしき男の子へと向けていたのだ。