心の赴くままに
ラースに連れられて、装飾品の工房が並ぶ目抜き通りを、ティアは物珍しげに眺めていた。
店の飾り窓の中にある宝飾品が目に入ると、その技術の高さ、美しさに彼女は思わず目を丸くする。
王都とはまた違った活気であふれ、古い歴史の中にも洗練された技術を感じさせる。
観光客むけの細工を売っている露天商もちょっと気にはなるが、今回は鍛冶職人の工房を見るのが目的。その工房の中から魔石を加工できるところを探すのだ。
しかし工房も庶民むけの手軽に買える品物から、上は貴族むけの高価な品物まであり、買い物をせずとも眺めているだけでも楽しいものだ。
ティアは街の雰囲気を楽しんでいたが、どうやらラースはそんな気分ではないようだ。
「さて、どうしたものか…」
困ったようにぽつりと漏らした声をティアは、聞き逃さなかった。
「やっぱり、どの工房に持っていくか考えているんだよね…」
「まあな。この街で魔石の加工を行える工房なら知っている。だが、はたしてそこに持ち込むべきか正直悩んでる。……俺が知っている魔石とはかなり違うようだし、仮にもあの犬っころが創ったもの。計り知れない力が宿っていると考えて間違いないだろう。そんな魔石を果たして持ち込めるのか? 持ち込んだらどうなるか……まあいろんな意味で心配だがな」
ちらっとティアに視線を向けるが、彼女はそのことに気がついていないようで、
「そうだよね。ラースの立場もあるし…」
冷静に考えてみれば、フィヌイ様が直々に創ってくれた魔石。
つまり神様が直接、人に創り与えてくれたもので、そんなことはこの国が始まって以来のことだろうし、記録にもないと思う。はっきりいって国家レベルの一大事だ。
ラースは王太子派に属している密偵だし、いろいろ私の分からない所で政治的思惑も絡み大変なはずだ。
「もし、フィヌイ様が目を覚まさなかったら…今日は様子見ぐらいでもいいかも」
「まあ、そうだな。下手に動くわけにもいかないしな。だが、あいつはこの街を指定している」
「つまりこの街に、この魔石を加工できる人がいるってこと…?」
「ああ、そう考えたほうが自然だ。ちなみにあいつからは、何か聞いていないのか?」
「特に何も…。昨日の夜も何も言っていなかったよ」
「ああ……まあ、そうだよな。あいつのことだから、直前になってとんでもないことをいいだしそうな予感がする」
「あははは……う~ん、そんな気もする」
今までのことを考えると、フィヌイ様はとんでもないことを突然言いだすことが圧倒的に多い。事前に教えてくれることなど、まずないと考えていいだろう。まあ、それもいつものことなんだけどね。
とりあえず私たちはフィヌイ様が目覚めるまで工房を見て回ることにした。
「……?」
本当にそのつもりだったのに…何故だかわからないが、ふと気になり裏路地へと私は入り込んでいた。
「おい、どうした!」
「なんかわからないけど…ちょっとこの路地を見てみたくなって」
「お前もそれかよ。まったく、こいつらときたら……」
なんのかんのと文句を言いながらも、ラースは私の後をついて来てくれている。まあ口は悪いが、私の我儘に付き合ってくれるあたり、こいつの良いところなんだよね。
ずんずんと裏路地を私は進んでいた。裏路地は、地元の人たちを相手にしている小さな工房が多い印象で。
やがて私は、店先に掲げられた古い鉄製の飾り看板の前ではたっと止まったのだ。
勇猛なライオンの絵柄が印象的だが……そこは、小さく古びた工房があり。
私は躊躇なく店の扉を開け中に入る。すると呼び鈴の凛とした音が店内へと鳴り響いたのだ。