方向性が違う
ティアは口元に手を当てにっこりと微笑むと。
「おほほほ……嫌ですわフィヌイ様ったら。わたくしはいつもこんな感じですわ」
――オホホホって? ……それにワタクシなんて…ティアそんなおかしな喋り方しないよね。どうしたの体調でも悪いの? それとも変な物でも食べた……?
「食い意地のはったこいつのことだ。拾い食いでもしたんじゃねえのか?」
ラースがぼそっと呟いた言葉に、フィヌイは狼の耳をぴんっと立てるとそれだと言わんばかりの顔をする。
――そうだよ! さっきティアったら、その辺に生えてるキノコ美味しそうとか言っていたし、僕がそれ毒キノコだよって教えたのに、我慢できずに隠れてこっそり食べちゃったんだよ。
「……!」
フィヌイの言葉にティアは衝撃を受けるが、それでもなんとかもち直すとラースを睨みつける。
こいつたら余計なこと抜かして――!! 私が拾い食いなんかするわけないでしょ!
人をなんだと思ってるのよ、まったく……。
確かに…道端に生えてたキノコは凄く美味しそうで食べたいなって思ったけど…でも、でも食べるのは必死で我慢したんだから!
フィヌイ様もそんな奴の言うことなんか信じちゃダメだってば。クスン。
そんなことをティアが考えていると、フィヌイは小さな肉球を彼女の手首にぺたっとつけてきたのだ。
――う~ん、診たところ脈も正常だし健康状態に問題はなさそうだね。それじゃ、あの変な喋り方の原因はいったいなんだろう?
そう言いながら小首を傾げたのだ。
はっ……か可愛い――!
さり気ない仕草なのになんでこんなに愛らしいんだろう! 思わず頬がゆるんじゃうよ、えへへ…
「おい、今度はニタニタ笑い出したぞ。大丈夫なのかこいつ! いや、変なのはいつものことか・・」
妙に納得したように、ラースは冷めた口調でポンと手を叩くと頷いていたのだ。
だがその瞬間、プチっと私の中で何かが切れたのだ。
「黙って聞いてれば失礼ね~!! 私はいたってまともな人間よ――!!」
「おっ、もとに戻ったな」
――あ、いつものティアだ!
ラースはやれやれという顔をし、フィヌイ様は嬉しそうに尻尾をふりふり振っていた。
「……」
ティアは自分で作っていた聖女のイメージが崩れてしまい、その場で固まっていたのだ。