ティアの思いつき
――古代からの歴史が今も受け継がれている「古の都」――セピトの街はそんな風に呼ばれていた。
街は白亜の石で造られた建物が多く立ち並び、古い歴史を感じさせられる造りとなっている。
言い伝えでは、神話の時代からこの街には既に人々が住んでいたというから驚きだ。それくらい古い歴史がある街ということなのだろう。
現に街のあちらこちらには古代からの遺跡も多く、観光名所になっているところもあるくらいだ。街の建物もどことなく王都の神殿に造りが似ていて、どこか神秘的な雰囲気すら漂っている。
そういえば建物に使われている石は、近くの山から切り出された岩石を使っているらしく、昔と同じ技法で造られているそうだ。
またセピトは古い歴史だけでなく、装飾品の細工の街としても有名だ。
近くの鉱山では貴重な金属や鉱物も採れるため、街には装飾品の工房も多く、鍛冶職人たちはお互いに腕を磨き競いあい、その技術は国外にも知れ渡るほどで、貴重な国の収入源にもなっている。
ラースの話によると、シェラー村ほどの品質ではないものの魔石が採れる鉱山もあるらしく、一般には知られていないが昔から杖や魔道具の加工を行う工房もあるようだ。
この繁栄もこの国の主神であるフィヌイ様の恩恵か、それともなにかしらの影響なのか……思わず前を歩くフィヌイ様の姿を見てしまうのだ。
フィヌイ様はいつも通りのもふもふの子狼の姿で、日差しを浴びながら気持ちよさそうに歩いている。
小さな肉球で大地を踏みしめ歩くその姿は、なんとも愛らしくて神々しいことか…
白いふさふさの尻尾もふんわりとした綿毛のように揺れ、見ているとこっちがほんわりと癒され、感動に打ち震えてしまう。
その瞬間、シリアスな気分など吹き飛びあまりの可愛さに思わず抱き上げて、すりすりしたい衝動を駆られるが必死で我慢をする。
だって…ラースの冷たい視線が刺さってくるんだもの。相変わらず変な奴だとその目が言っているのだ。
仕方がない! ここは聖女らしくお淑やかに振舞おう。通行人の目もあることだしね。
ティアはできるだけ上品な笑みを浮かべると、数歩前を歩く子狼の姿をしたフィヌイをそっと抱き上げたのだ。
「おほほほ……フィヌイ様、そろそろセピトの中心街に入ります。人通りも増えてきますので、わたくしがこのように抱きかかえますので、そのまま進みましょう」
――ティアどうしたの? 喋り方が変だよ…。
フィヌイはティアの腕の中でびっくりしたように目をぱちくりさせると、彼女の顔をまじまじと見つめたのだ。