焼いもの美味しい季節
「はふはふ…もぐもぐ……これ凄く美味しいね、フィヌイ様!」
「ふうふう…はぐはぐ……」
――うんうん、なかなかの美味だね。お腹が膨れるだけじゃなくて、蜜のような甘みがあって大地の豊かさも感じられる。これは良い土で作られているよ。
今のフィヌイ様は子狼の姿で、わんちゃんの伏せをしていた。前足で器用にほくほくの焼きいもを押さえながら幸せそうな顔をして食べている。
私もリスのように頬を膨らませ、焼きいもを詰め込み頬張っていた。そして、次に干し芋に手を伸ばし食べようとしたところで……
「どうでもいいが…お前らその勢いで干し芋まで食いつくすなよ。これは保存食用にするんだからな」
ラースが干し芋の入った袋をさっと取り上げると、冷静に釘をさしてきたのだ。
「え~、もう少し食べさせてよ~」
「ぎゃふ! ぎゃふぎゃふ」
どうやらフィヌイ様も干し芋を狙っていたようで、文句を言いながら不満げに頬を膨らましていた。
現在、私たちはシェラー村から南下し隣国の国境近くの街道付近にいた。今は街道の隅っこで火をおこし、のんびりと野宿をしているところだ。
今日の日中、農家のお婆さんからこの地域で作られているお芋を貰い、今日の夕食はこれを食べている。
このお芋は「さつまいも」と言うらしい。
この辺のお芋は甘みが強く、お婆さんから教わったお勧めの食べ方。焼きいもというものを作ってみたのだ。
出来上がってみると、それがまた思った以上に甘くて美味しいのだ。体もほかほかと温まってくるし、まさに良いこと尽くめだ。
牧歌的な風景を眺めながらティア達は焼きいもを頬張り至福の時を過ごしていた。こうやって周りの風景を見ていると、ほくほくの焼きいもの甘い匂いが辺りに広がっていくようだ。
この近くには、古くから装飾品の細工で有名なセピトの街がある。私たちはフィヌイ様の神託でこの街を目指している途中で。その旅の道すがら私はフィヌイ様からは神力を使った術を、ラースから魔力の操作方法を少しずつ教わっていた。
こういう風に旅を続けて大きな街道に入ると、ちらほら人の姿の見かけるようになってくる。
大きな街に近づくほど、街道の人通りも多くなるもので。
セピトの街には商人だけでなく、古代からの歴史的な建物もあり多くの観光客も訪れる。その多くの人たちを目当てに、近くの農家のさんも野菜を街で売るために荷車に乗せ運んでいく光景もちらほら見られる。
丁度そんな時だった。大きな荷物を持ったお婆さんが道端でうずくまっていたのは……
ティアは心配になりお婆さんに駆け寄り声を掛けたのだ。聞けばセピトの街に行き野菜を売るつもりだったが急に腰を痛めてしまい動けなくなってしまったという。
ティアはいつもの通り、私は旅の修道女で少しなら治癒魔法を使えることを伝え、お婆さんの許可を得て腰の治療を行ったのだ。もちろん、わからないようにこっそりと聖女の治癒の奇跡を使ってである。
お婆さんはすぐに動けるようになるととても喜び、もっているお金をすべて渡そうとしてきたのだ。ティアは慌てて修業中の身なので気持ちだけで十分ですとやんわりと断る。
収入を得るために街に野菜を売りに行くのに…さすがに貴重なお金をもらうわけにはいかないと思ったのだ。
だが、お婆さんはそれでは気持ちが済まないと栄養もありなおかつ保存食にもなる、この野菜だけは受け取って欲しいと半ば強引にさつまいもが入った大きな袋を渡してきたのだ。
お婆さんは残りの大きな包みを背負い直すとティアに何度もお礼を言い、野菜を売りに街の市場へと向かっていったのである。
そしてその袋には、さつまいもと、干し芋が入っていた。
干し芋は保存食になるからと今さっきラースに没収され、さつまいもは焼き芋にして現在、美味しくいただいている。
もう少し先に進めば、セピトの街に入る。
ティアはほくほくの焼きいもを食べながら、夜空の星をなんとなく眺めていた。