魔力を安定させるには
「ふ~ん、そうか。俺にはティアの魔力が生まれつき強いように感じたんだがな。違うなら別にいい…」
ちらっとフィヌイの表情を見たが、やっぱりというべきか特に表情に変化はなかった。いつもの、なーんにも考えてなさそうな間抜け顔だ。
やっぱりそう簡単に尻尾は見せないかと内心ため息を吐きつつも話題を変えることにする。
「で、具体的にはティアの魔力をどう安定させるつもりなんだ?」
――今までは僕が直接指導してきたから、聖女として大きな術も扱えるようになったし、高位の地属性の魔法も少しずつだけど使えるようにもなってきている。けど、ティアは人の器だから……無限に魔力を使えるわけじゃない。また無理をして高位の術を使おうとすれば今回のように倒れてしまうこともある。最悪、そのまま意識が戻らないことだってありえるんだ。だから、人として魔力の使い方をおぼえていかないといけない。それに、ここからはあまり大規模な訓練は目立ってできそうにないし、地味な訓練も取り入れつつティアの魔力を安定させようと考えているんだ。
「ふふふっ……そうですね。今までの訓練はちょっと…」
ティアは乾いた笑い声をあげると遠い目をする。
フィヌイ様がマンツーマンで直接指導してくれるのはとてもありがたいし、光栄なことだと思っている。
しかし、即実践! 出たとこ勝負の大規模な訓練では命がいくらあっても足りないのだ……
何度も言うが、これでは聖女ではなく……英雄、もしくは屈強な戦士になる為の訓練だと言った方がしっくりくるというものだ。
――具体的な方針として、僕とラースでティアの魔力の訓練をしつつ、僕の神力のこもった魔石を加工できる街へと向かおうと思っているんだ。次の結界の修復については、それが終わったら話すことにするよ。
「おい! 俺がティアの訓練につきあうとか一言もいってねえし、俺に相談もなしにいきなり決めるのかよ……」
――うん、そうだよ。だってラースは魔力が強い新人の子とかに制御方法とか教えていたじゃない。それと同じことをすればいいんだよ。僕はなにも難しいことは言っていないよ。
きょっとんとした子犬のような表情で、フィヌイはしれっと言ってのけたのだ。
こいつ…俺のことは全てお見通しってことかよ。
相変わらず食えねえ犬っころだなと苦々しく思いながらも承諾はする。
ティアをこのままにしておくことなど、危なっかしくってできるわけがない。そもそもちゃんと魔力の制御方法を教えたほうがいいだろうと思ったのだ。
「わかったよ。俺も協力してやる」
「よろしくねラース。私……魔力を上手く制御できるように頑張るから!」
「ああ…」
がしっとラースの手を握りしめると、ティアやる気に満ちた目をしていた。
そんな彼女の姿を見ていると、なんだか毒気が抜かれてしまう。
まあいい…。ティアの魔力に関してはいずれ分かるときがくる。今は魔力の訓練とやらに、できる限り付き合ってやろうと不思議とそんな気持ちになったのだ。