肯定も否定もせず
――それじゃあ、お腹もいっぱいになったところで次の目的について話すよ。
「はい、お願いします!」
「今回は、ずいぶんと早いんだな…」
それぞれの感想を言いながら二人はフィヌイに注目する。ちなみにノアはラースの後ろにささっと隠れ、それでも気になるのかちょっと様子を伺っていたりする。
――最終目標は結界の修復と、ウルボロスの邪神復活を阻止すること。けど……その前に不安定なティアの魔力を安定させること大切だね。それとラースに持たせてある僕の神力がこもった原石。この石を加工して持ちやすい形に変えることも先決だよね。
「なあ、その前にティアに聞きたいことがあるんだが少しいいか?」
―― うん、僕はかまわないよ。
「え、何…? 聞きたいことって」
フィヌイの了解をえると、ラースはおもむろに口を開いたのだ。
「前から思っていたことだが…ティア、お前はなぜ魔法学院にいかなかったんだ」
「……へ?」
ラースの問いかけに、ティアは目を丸くする。
「私はもともと魔力は少ないよ。フィヌイ様とたまたま契約をして、神力を使わせてもらっているから地属性の魔力が飛躍的に上昇しているだけで。本来の私の魔力では、とても魔法学院に行けるレベルじゃないってば」
ティアは笑いながら手をパタパタとふる。
そう、私は本当にどこにでもいるような地味でごく普通の女の子だ。この力はフィヌイ様から借りているもので、私個人の力ではない。それに私はちっぽけな人間だということを忘れてはいけない。勘違いしないように、そう自分を戒めているのだ。
だがラースは、その言葉を聞いても納得などしていなかった。ティアは、もとから強い魔力を秘めていると考えていたのだ。
彼自身、微細な魔力の波動や…神力の動きも感じ取ることができる稀有な能力の持ち主である。
そんな彼でも、神の存在など正直信じてなどいなかった。ただ、それに近いものが存在していると今までは考えていたくらいで……
神殿でも、フィヌイの気配や神力を感じ取ることができる者はごく少数だと聞いてはいる。
だからこそ彼は、神と聖女を探しだす任務に就いていたのだ。彼の目ならば本物を探し出せるはずだと、上は考えてのことで。
ラースはティアの言葉は本当かとフィヌイの方を向いたが、奴は子狼の姿できょとんと小首を傾げ、よくわかんないと素知らぬ顔をしていた。
「……」
肯定も否定もしてはいない。やはりこいつは何かを隠している。ティアにすら言っていないことがあるとラースはそう感じたのだ。