お世話係のようなもの
ティアは火の前で困り果てていた。
――こういう場合、魚の焼き加減って……どうするんだろう?
料理は好きだが、こういう焚き火とかで魚など焼いたことは今まで一度もなく。
焚き火の番は、火が消えないようにすればいいだけだが…こういう場合はどうすればいいのか、さっぱりとわからない。
心底困っていたところに…ふと鳥の羽ばたきような音がしたと思ったら、
突然、霊獣ノアが近づいてきた! と思ったらティアの懐に飛び込んできたのだ。最初は驚いたがティアだが、なんとか両手で受け止める。
その様子からフィヌイ様に追っかけられたというわけでもなさそうで、ただ怖いから逃げてきたといったところか。
静かにそおっとノアに触れてみると、フィヌイ様のもふもふとはまた違った、ふかふかした羽毛布団のような柔らかな手触りだ。
そういえばノアは霊獣だから――魔力がある人間でないと見ることも触ることもできないって、ラースがそんなことを言っていたような気がする。
――不思議なものだ。
確かにそこに存在しているのに、普通の人には見ることも触れることもできないなんて……
ティアはフィヌイと同じように、もしかしたらノアの声が聞こえるかもしれないと考え、語りかけてみた。
しかし結果は……何となく考えていることは伝わってはくるが、声を直接聞くことはできないということだった。
ラースとは直接意思疎通ができるみたいだが――やはり私ではダメか……。
私とフィヌイ様のように、ラースとノアにも強い絆があるみたい。そんなことをぼんやりと考えていると、
――ティア! 魚が焦げちゃうってば――!!
見れば子狼の姿のフィヌイ様がラースを引き連れ、急いでこちらにやってくるではないか。
「…? 魚が焦げるって、あ…!」
焚き火に視線を向ければ、ちょうど焼き魚が炎に包まれたところだった。
「はふ、はふ……はぐはぐ…」
「ふう、ふう……もぐもぐ…」
結論から言うと、すぐにラースが適切に処理してくれたお陰で魚は黒焦げにならずにすみ。
そして、私たちは美味しく焼き魚を食べていた。
「外の皮は、ぱりっとして中はホクホク…直火で焼くと、川魚ってこんなに美味しんだね。私、保存食用の魚しか食べたことなかったから、こんな美味しい魚食べたの初めて! フィヌイ様もとても喜んでいるし」
――うんうん、満足、満足!
「お前ら……俺の分もちゃんと残しとけよ……」
ティア達の食べっぷりに飽きれながらも……最近、自分は密偵ではなくこいつらのお世話係になっているんじゃないかという疑問がラースの頭の中を過ったのだ。