神様はお見通し
――王都の神殿では、かなりの騒ぎだったみたいだねー。
フィヌイは白い子狼の姿でラースの顔をじーと見つめたのだ。
「なんのことだ……」
――やだなあ、とぼけちゃって。僕は神様なんだからなんでもお見通しなんだよ。アイネが神官長代理って肩書きだけど事実上、王都の神殿でのトップになったんだよね。前の神官長ときたらかなりの野心家だから、あんな状態になってもまだ神官長の座を降りるつもりはないとか言っちゃてさ…今の神殿の体制じゃどう考えたって、失った信頼は取り戻せないのに、ほんとかわいそうだよね~。
「お前……かわいそうだなんて絶対に思ってないだろ」
――あれ、やっぱりバレちゃた。アハハハ……
子狼の姿で尻尾をふりふり呑気なことを言う。
「前の偉ぶった神官長は、病で倒れたと聞いたが本当か……?」
―― うん、間違いないよ。ほら、前にティアを連れ戻しにきた神官がいたでしょ。それでもってティアに説得されて神殿に帰っていった人。名前忘れちゃったけど…あの人たちがティアは神様である僕と共に、神託の旅を続けるから神殿には戻らないと伝えたら、あら・・大変! 神官長たら、顔を真っ赤にしてゆでダコみたいに怒りだしたとたん、頭の血管がぶち切れちゃったみたいでそのまま倒れちゃったんだよ。
そう言いながら、フィヌイは尻尾を短く振ると、
――もう年だし仕方ないよね。それでも一命はとりとめたみたいで、今は寝たっきりってわけ。それでも権力にしがみつこうとしてたみたいで、かなり見苦しかったみたいだよ。でも…ここから先の後始末は、ラースのほうが良く知っているよね。
ラースは肩をすくめると、
「ああ、神官長は頭の悪い第二王子に取り入り操っていたからな。セレスティア殿下もここぞとばかりに邪魔者を片付けることにした」
――あ! そうそう、念のために言っておくけど……。今回に関しては僕は片目を瞑ったけど、この国のことは大概は見ているからね。そのことは忘れないでよ。
「なあ、ひとつ聞いてもいいか…」
――う~ん、答えられることなら。
「お前は、なぜこの国を見守っているんだ」
――昔、僕の気に入った人間がいて彼がこの国をとても大切にしていたから。でも、そろそろいいかなっとも思ってもいた。……今回はティアがいたから国を出て行くのは止めたけど、僕は気まぐれだから、そのことは覚えておいてね。
「……」
ラースは何も言わず黙って頷いたのだ。つまりは、この国で起こることは全てお見通し、
そして……気に入らなければ国を出て行くなり、神罰を落とすこともあると暗に言っているように彼には聞こえたのである。
真面目な顔をして話をしていたフィヌイだが、急にはっとしたように黒い鼻で周りの匂いを嗅ぐと、
―― 大変! ティアったらこのままじゃ残りの魚が焦げちゃうよ。ラース急いで戻るよ。今日の晩御飯の為にもね!
フィヌイはラースを急かすと、慌ててティア達がいる焚き火の方へと戻っていったのだ。