焼き魚と手紙
――その日の夜、鳥の霊獣ノアはラースのもとへと帰ってきたのだ。
ちなみにその日、私たちは山の中で野宿をしている。
焚き火がパチパチとはぜて、オレンジ色の光りが闇の森を照らしている。傍には川魚を刺した枝が数本地面に刺さっており、魚の焼ける香ばしい匂いが辺りに漂っていた。近くの清流でラースが獲ってきたものである。
どうやら今日の夜は、始めから野宿をするつもりだったようで。
日中、私が大きな街の近くでフィヌイ様と一緒に草を美味しそうに食べていたのがいけなかったらしい。それが原因で通行人から注目を浴びてしまい大変だったと、ラースから目立った行動は取るなと散々言っただろうが――!! と後から、くどくどくどくどと例のごとくお説教をされたのだ。
それが原因で、近くの街での宿泊は無くなったわけだが……
まあ…その話は置いといて、とりあえず日中に立ち寄った街はそのまま通り過ぎ、その先の街道から少し外れた森の中に私たちはいた。
ちなみにフィヌイ様は焚き火の前で、お行儀よくお座りをしている。
魚が焼けるのを今か今かと尻尾を振りながら子狼の姿で目を輝かせ眺めていたのだ。
そこに霊獣のノアが戻りラースが席を外したのを見ると、これまた珍しくフィヌイ様はあいつの後をトコトコと追いかけて行ったのである。
「……」
そうすると私まで追いかけていったら焚き火の番をするものがいなくなってしまう。私は焚き火の番をしながら、少しだけ食べて魚の焼き加減を見ることにしたのだ。
そのうちみんな帰ってくるだろうと、焼き魚に夢中であまり深くは考えはいなかったのである。
ラースはティアたちから少し離れたところで、霊獣のノアから手紙を受け取ると文面に目を通していた。
その霊獣のノアは与えられた仕事も終わり、ラースの肩の上で羽を休めていた。
やっぱり主人の傍が安心できると肩に止まり、しばらく休憩しようとしたのだが……そこへ、白い子犬の姿をした神様が軽い足音をたてやってくる。
「……!」
その瞬間ノアは固まった。
ノアはフィヌイのことが苦手なのだ……。美味しそうだと言って一度かじられそうになったし、やっぱり神様なので畏れ多い。
慌ててノアは羽ばたくと安全圏内であるティアの元へ、逃げて行ったのである。
――あれ、ノア逃げちゃた。今は焼き魚が食べたい気分だから、食べたりしないのにね。
てくてくとラースのもとへ近づきフィヌイは小首を傾げたのだ。
ラースは手紙から視線を外すとフィヌイを見据える。見た目はまぬけそうな犬っころだが、それだけではないことを彼は知っていた。