部屋でゴロゴロと
昨日ラースから聞いた話によれば、ここはシャラー村の村長さんの家だという。
私はザイン鉱山で意識を失った後――ラースはフィヌイ様の許可を取り、村の外で待機していた国軍…つまりはナギさん率いる部隊に救援を要請したのだ。
もちろんフィヌイ様も、鉱山や村に残っていた全ての瘴気を浄化、禍々しい者が再び侵入できないように仮の結界を張ったため全員の治療には手が回らなかったそうだ。
つまり、できることは神様をあてにせず自分たちの力でやるべきだと暗に示したそうで。
……考えてみれば当然ことだが、人間は精一杯の努力もせず、つい神様の力をあてにしてしまう。
フィヌイ様が言うには神話の時代の取り決めにより、いくら神様とはいえこの世界に無制限で介入することはできなくなってしまったそうで。その頃、いろいろとややこしい誓約ができあがったのだ。
気がつけば話が反れてしまったが……つまり、その後私はこの村の村長さんの家へ運びこまれ治療を受けることになった。だがフィヌイ様がそこで待ったをかけ、自分が直接治療したほうが良いということで今に至るというわけだ。
私は数日間、この部屋でずっと眠り続けていた。
その間フィヌイ様は私の傍に寄り添い、ずっと神力を注ぎ続けてくれていたのだ。
目が覚めてから数日が経ち、私は寝具の中でごろごろしていた。
私が目を覚ましたと聞きつけ、村長さんが挨拶にきたり、ナギさんが村の状況について説明してくれたりと一時は慌ただしかったが。
まあ良い知らせとしては、村も少しずつではあるが元の生活を取り戻しつつあるようで……
フィヌイ様やラース、みんなのお陰で体調もだいぶ良くなり、寝具の中にいるのが私は退屈になってきた。
ふと横を見ると、フィヌイ様が子狼の姿で目を瞑り丸くなって休憩をしている。
そういえば、あれはおやつ代わりだったのだろうか……?
先ほどフィヌイ様は催促をして、器に少し温めたミルクを入れてもらっていた。
大好きなミルクも飲み終わり、お腹がいっぱいになると寝息をたてて、今は気持ちよさそうに眠っている。
村の浄化や私の回復のために、神力をだいぶ消費してしまいフィヌイ様も疲れているのだろう……
偉い神様とはいえ、人が暮らすこの地上では使える力には制限がある。前にそんなことを話していたなとその時のことをティアは思い出していた。
そして今は仮の結界を張ってくれてはいるが、これも一時的な効果だと聞いている。
やはり私がフィヌイ様と直接出向き……あのザイン鉱山の地下にある水晶洞窟。そこに張られている結界を修復しなければならない。
だが、いつ出かけるべきか……
私が聖女だとここのみんなは知っているし、出かけようとすれば部屋の入口で見張りに立っている軍の人に呼び止められるだろう。
これは自慢ではないが、私は昔から嘘をつくのが下手だ! だが、かといって素直に目的地を教えたくはなかった。
……なんとなくだが、あの場所は知られてはいけない気がするのだ。
そうするとどうするべきか…そんなことを私は一生懸命に考えていると……
――それじゃ、今日の夜遅くにこっそりと抜け出そうか。
いつの間に起きていたのかフィヌイ様は目をぱちくりさせると、ふさふさの尻尾を振りながら私を見つめていたのだ。
ティアは迷うことなく、その提案に頷いていたのだ。