過度な労働は疲れる
再びティアは、執務室のアイネのもとを訪れたのだ。
救護院の手伝いをしたいと申し出ると彼女はとても喜び、話を聞けば人手が足りなく困っていたらしい。
それじゃお願いしようかしら――とアイネは快諾してくれたのだ。
院長であるアイネにお礼を言うと、ティアは隣の棟にある医療施設へと向かう。
救護院は貧しい人を助けることを目的とし、貧民へと炊き出しの他に、無料の医療施設の運営も神殿から任されているのだ。
ティアが手伝う場所は、無料の医療施設と決まり、
まずは指定されたいくつかの病室の掃除。それが終わったら夕食前に患者たちにお茶を淹れて回ることが今日の仕事だ。
医療施設の担当者から掃除用具を借りると、さっそく掃除に取りかかる。
そこは空き部屋で、間もなく患者用のベットが運ばれてくる。それまでにきれい拭きあげ掃除を済ませてほしいとのことだ。
――ねえ、ここの建物って古いけどよく磨かれて掃除が行き届いているよね。
物珍しげに、周りを見回しながらフィヌイが問いかけていた。周りに人がいないことも確認してくれているようだ。
「私もそう思います。どうやら衛生環境を整えないと伝染病の原因にもなるそうで、常に清潔に保つように心がけているそうですよ。
聞いた話では、予算は神殿よりはるかに少ないのになんとかやり繰りしているとか・・」
――そういえば、神殿では鏡みたいにぴかぴか磨かれていたよね。あれって予算があるから。
「ふふふっフィヌイ様、それは私を始め下働きの者が、朝から晩まで塵ひとつ残さないよう、掃きあげ磨き上げている努力のなせる業です。
ここだって、お掃除の達人である私が来たからには神殿みたいにきれいにして見せますよ」
なぜか自信満々のティアに、フィヌイは思わずぽかーんとなる。
――あの・・掃除に誇りを持つんじゃなくて、ティアは聖女だってこと覚えてるよね?
「あ、すっかり忘れていました」
――・・・そうなんだ。
フィヌイはぷいっと背中を向けるとその場に座り込んでしまう。
耳が垂れ、尻尾も力なく床に落ちている。心なしかひとまわりも小さく見え、背中からは哀愁が漂っていた。なにやらぶつぶつと独り言も呟いているし・・
――いいんだ、いいんだ僕なんか。とか・・ティアなんかもう知らない。とか――完全にいじけていた。
「フィヌイ様・・。そんなにいじけないでください。ちゃんと私、聖女だって覚えていますから。ね、機嫌直してください」
――本当に?
まだ、疑うような視線を向けてくる。
「はい、ちゃんと聖女としての務めも果たしますから」
――ふふふっ、やっとその気になってくれたね。掃除が終わったら患者さんにお茶を淹れるよね。そのときに、早速『癒しの御手』を使うからそのつもりで準備しておいてね。
耳をぴっんと立てると、いつの間にかフィヌイは元気を取り戻していた。
そしてティアが患者さんにお茶を淹れる時間となり、フィヌイの指示のもと患者さんにさり気なく触れ、癒しの御手と呼ばれる聖女の奇跡を初めて使ったのだ。もちろん、こっそりとだが・・
その日の夜――全てが終わったときティアはへとへとに疲れはて、自室のベットに倒れるこむように突っ伏したのだ。