ラースの目的 ~中編~
「俺は、お前と同じように平民の生まれだ。――だが、俺は生まれたときから潜在的に強い魔力をもっていたらしい。それは本当に稀なことだと後から聞いた……そういう人間がどういう道を歩むかティア、お前は知っているか?」
いつも私をおちょくってくるラースにしては、ずいぶんと真剣な口調だった。
だがふいに、ふさっとしたもふもふの気配を感じたかと思えば――
私の膝の上には、いつの間にやら子狼の姿をしたフィヌイ様の姿があり、伏せをしながらくつろいでいたのだ。
もちろん…ただくつろいでいるわけではない。しっかりと聞き耳を立てているように見える。
私はフィヌイ様の背中を静かに撫でながら、話を聞くことにした。
そうすることで、無意識に気持ちを落ち着けようとしていたのかもしれない。
「確か……特待生として魔法学院に入れるんだよね。後は、優れた師匠について学べるとか……」
「ああ、それしか選択肢がないからな」
「……?」
――意外だった。
魔法についてしっかりと学ぶことができるのは特権階級に属している人たちと、ごく稀に平民でも凄い人たちだけという印象があったのに、ラースは皮肉の笑みを浮かべ話すのだ。
「どちらにしろ強い魔力を持って生まれたからには、その制御方法を学ばなければならない。そうしなければ魔力が暴走して危険だからというのが大きな理由だ。もし仮に、そのまま普通の生活を続けていた場合でも、最悪の場合……大事故の恐れもある」
「そうか…ごめん。私、知らなかった……」
「まあ、一般には知られていないからな…そう考えるのも当然だ。お前が謝る必要はないぞ。それでなくとも生まれつき魔力が強い奴は……やっぱり他とは違うんだよ。例えば水の属性の奴は水の精霊から好かれるのか、その加護があり自在に水を操れたりする。だが制御ができなければ、大洪水を起こしたり魔力を暴走させる危険もある。そうならないために国はそういう奴を見つけ次第、魔法学院に入れて魔法の制御方法や扱い方を徹底的に学ばせるんだ。お貴族様や魔法の秘術を受け継いでいる家系なんかの連中は、家門の仕事に就いたりする。その必要がない金がある連中は、神殿の上層部なんかに食い込んだりして贅沢三昧だがな」
「いいの……そんなこと私に話して……」
「構うもんか……お前は口が軽い方じゃないし、神様と聖女様の前で嘘はつけないだろ」
軽い口をたたきながらもラースはひょいっと肩をすくめる。フィヌイ様は私の膝の上でくつろぎながらも、ただの子犬のフリをして相変わらずのんびりしていた。
「俺みたいに平民で連れてこられた連中は、向こうが勝手に振り分ける。魔法の秘術を受け継いでいる家系に養子で入る奴もいれば、貴族の私兵としてこき使われる奴もいる。そうでない場合、稀に俺みたいに国のなかで働くこともあるか…」
「それであんたは――今までの行動に照らし合わせると、なんか王家に仕えているみたいだけど……まさかとは思うんだけど、第二王子ルシアス配下とか言うんじゃないでしょうね!」
まさかとは思うが……あの女たらしの馬鹿王子が新しい聖女を、まさか私を探しているのか。冗談ではない! あんなクズなんかに、ほんの気まぐれにせよ興味など持たれてたまるものか……!
私は知らずに、口元がおもいっきり引きつっていたのだ……。
「お前……ほんとすぐ顔に出るよな。安心しろ、俺が密偵として仕えているのは王太子セリスティア殿下だ」
ラースは呆れたように苦笑を浮かべそう答えたのだ。