ラースの目的 ~前編~
私は思わず――聖女だということを他人に話してしまったことに腹を立て、そんなことを言ってしまったが……いささか棘のある言い方だったかもしれないと、冷静になりちょっと反省する。
こいつにだって、事情というものがあるのかもしれない。
ひょっとしたら神殿や国の関係者。もしくは密偵なのかもしれないと……考えたこともなかったのかと問われると、ないと言えばそれは嘘になる。
それにフィヌイ様だって普段は愛らしい子狼の姿をしているが、こう見えて立派な神様。ラースのことはおそらくは全てお見通しで、私にこいつの正体をこっそり教えてもいいと言ってくれたのだ。
だが私は……ラースから話してくれるのを待つと言い、フィヌイ様からの申し出を断った。
それなのに、やむにやまれぬ事情から軍に救援を要請したのは明らかだ。さすがにそんな言い方はないだろうと、言ってしまった後に自分でも悔やんでしまう。
「ごめん……少し言い過ぎた。ラースにも事情があるのに……それと助けてくれてありがとう。あと、また無茶なことをしてごめんなさい」
「ああ…その、なんというか無事でよかった…こちらも黙っていて悪かったと思っている。いずれは話さなければいけないことだと思ってはいたんだが……その、なんというか踏ん切りがつかなくってな……」
気まずそうにラースは頬をぽりぽりと掻いている。ティアもなんとも言えない…微妙な空気の中でなぜかそわそわした気持ちになってしまう。
そんな中、フィヌイ様だけが姿勢をだらんと崩して、顎をぺたんとベットのヘリにひっかけ、ほけーとした顔で眠たそうに欠伸をしていたのだ。
いつものメンバーになり神様らしい威厳(?)を保つ必要もなくなったためか、子狼の姿のまま思いっきりだらけていたのだ。
――なんか人間ていろいろと大変なんだね……
全ての事情を知っているためか、目を細めながら二人のことを呑気に眺めている。
そしてラースは、この気まずい雰囲気をなんとかするため重い口を開いたのだ。
「どこから話すべきか……はじめはこの国の主神と聖女が神殿から飛びだし旅をしているという噂の真偽を確かめるべく、国からの密命がでたところから話すか…」
彼は、これまでのことをぽつりぽつりと話し始めたのだ。