国軍が動くとき
フィヌイ様はかっこよくそう言うとベットの上に跳び上がり、きりとした顔をするとお行儀よくお座りをしたのだ。私も上半身を起こし身なりを簡単に整えると返事をする。
「はい、どちら様でしょうか?」
「ティア、俺だ……その今、入ってもいいか?」
「ラース…。ええ、別に構わないけど」
「それとだな…お前と話がしたいという奴も一緒なんだが……」
ティアは思わず子狼の姿をした、フィヌイの顔を見つめたのだ。フィヌイがこくと頷き許可をだすのを確認すると…
「ええ、大丈夫。フィヌイ様も入っていいって言ってる」
「そうか……」
ラースは扉を開けると部屋の中へと入ってきた。
そして彼と一緒に入ってきた人物を見たときティアは目を丸くする。
どこからどう見ても、この国の身分の高そうな軍人に見えたのだ。
なんでこんな身分の高そうな人が、私に向かって片膝を付き恭しく礼なんぞしているのか。
いや、それよりもなんでこんな辺境の地にいるのか……?
表面上は平静を装いながらもティアの頭の中は非常に混乱していた。とにかく、庶民だけど聖女らしく話さなくては……
「お初にお目にかかります。私は王家直属の独立部隊に所属しておりますジオラルド・クロイツ・ナギと申します。我が国の主神フィヌイ様、そして新たな聖女様にお会いでき誠に光栄に存じます。本来ならばこのようなところでなく、もっと安心してご静養できる寝所をご用意したかったのですが、誠に申し訳ありません」
「……。いえ、十分休むことはできましたのでどうぞお気遣いなく……それよりも私の他に鉱山より運ばれた村の人たちもいると聞いています。その方々の容態はどうなっていますか?」
「はい。我が部隊が仮設の救護所に運び、現在衛生兵である魔導士が治療にあたっております。運びこまれた村人たちは衰弱こそしていますが、命の危険は脱し後遺症も残らないかと思われます」
「そうですか。ありがとうございます……ナギさん、引き続きどうかシャラー村の人たちのためにお力添えをお願いします。それと……このラースと話しがしたいのですが、少し席を外してもらえませんか? 扉の外にいる護衛の方も含め人払いもお願いします」
ティアがそう切り出した途端、ラースは一瞬ぎくっとした顔をする。
そしてナギさんは私の希望を快く聞き入れると、扉の前に立っている兵たちも含め人払いをしてくれたのだ。
人払いがされた部屋の中で、私の視線が当然のようにラースへと鋭く突き刺さる。なぜかフィヌイ様だけは、楽しそうに尻尾をふりふりその様子を眺めているようだが。
「それじゃ、説明してもらいましょうか……? 貴方はいったい誰なのか。私に近づいた目的もしっかり話してね!」
ティアはなるべく笑顔でラースにむかい問いかけたのだ。