暗闇の先へと向かう(1)
着いた先は狭い鉱山の坑道のようで……行く手には深い闇が広がっていた。
ティアは、思わずぶるっと身震いをする。
急に寒くなった気がするのだ。ひんやりした冷たい、嫌な感じのする風が坑道の奥から流れ込んでくる。
おまけに辺りもやっぱり闇が広がっていて、少し先でさえ見えないのだ。
誰かいないの――? と思わず声をだそうとしたとき、
さらさらした小動物の尻尾のようなものが、えいえいと膝に当たってきたのだ。
は……! この感触は、フィヌイ様の尻尾とみた。子狼のときにさり気なくさわったことがあるから間違えるわけがない。
ちなみに尻尾はデリケートなので、こちらからむやみにさわってはいけない! それがマナーだ。
――もう、ティアったら……ダメだよ! 今、大きな声をだそうとしたでしょ。近くに敵がいるかもしれないんだから気をつけてね……
『はははっ……。すみません…』
声にはださずにティアは心の中で謝ったのだ。
すると今度は、誰かに手首をくいっと引っ張ってくる。これも誰だかわかる……ラースだ。
私よりも身体の体温がずいぶんと高いようで、けっこう熱を持っているんだよね。
しかも、呼吸が聞こえてきそうなほどに近くに引き寄せられるから、迂闊にもちょっとドキドキしてしまう。
イケメンだから、まあ仕方ないか~ これで性格が良ければなあ……惚れてしまうかもしれないのに残念…
でもこいつの普段の行いというべきか……性格の悪さからそんな気持ちは綺麗に水に流してしまったようで、たぶん…ないんだよね。
そんなくだらないことを考えていると、ラースが私の耳元で話しかけてきたのだ。
「お前は下手にしゃべるな…。ここからは慎重に進む必要がある。俺は闇の中でもお前よりは先を見通せる」
――もちろん、僕も暗闇は平気だよ。ここからは何があるかわからないから僕が先頭を歩くから、ティアはなるべく安全に進んで。
「俺はお前の手を念のために繋いでおくから、絶対にはなれるんじゃないぞ……」
私はその言葉に素直に頷いたのだ。
そしてフィヌイ様を先頭に、先へと慎重に進んでいく。しばらく歩いていると狭い坑道が途切れ、突然広い空間へと出たのだ。
そこには、黒いローブをまとった人物がひとり佇んでいた。その人物はこちらを見て、いや私を見つめていたように見えたのだ。