ザイン鉱山の異変
「ティアは単純だから、特に疑問を持っていないようだが、俺はまだ…納得はしていない。聞きたいことはまだあるからな」
――そうだね。僕もできる限りのことは答える。これから旅をする上で知っておいた方がいいからね。
ラースはなおも突っかかっていたが、フィヌイ様はとても落ちついていた。
さすがに長い年月生きているだけのことはある。大人の対応だなと感心したが……ん? ちょっと待てよ! ラースが今、気になることを言ったような……
「ちょっと待ちなさいよ……私が単純ってどういうこと! まるで私が、普段から何も考えないで のほほ~んと生きているみたいに聞こえるんですけど……」
「いや……実際そうだろ」
あいつはジト目でこちらを見ると何を今さらと言うように、ぼそっと呟いたのだ。
くそ~! 悔しい……ラースごときに馬鹿にされるなんて~~
ティアは悔しさのあまり握りこぶしを作り、腕をぶんぶんと空中で上下させていた。だが、そんな中でも話は進んでいく…
――それで、何を聞きたいのかな?
「なぜ、ティアに結界の修復をさせようと思った。この結界は俺の見た所つい最近、急にほころびができたってわけでもないよな」
――そうだね…。百年ぐらい前からその兆候は見えていた。でも、歴代の僕が選んだ子たちではあまりにも荷が重すぎたんだよ…… ティアに手伝ってもらおうと思ったのは、歴代の聖女と比べても強い魔力をもち、なによりも生まれつき地属性魔法の潜在能力が非常に高かったから。さっきも言ったけど、ギリギリまでティアに手伝ってもらうかどうか……僕も迷っていた。なにせ僕と一緒に行動し結界を修復するということは、命の危険にティアをさらすことにもなる。
「ウロボロスに命を狙われる…リスクがあるってことか?」
――そう、奴らは僕の張った結界を無力化し、邪神を蘇らせてこの世界をなにも無い状態に戻したいんだろうね。だから結界を修復できるティアが邪魔なんだ。もちろん、ここの結界も修復される前に破壊したいと考えているだろうから、急いで修復をしないといけない…!?
そう言った直後――フィヌイ様、狼の直立耳をぴくぴくさせ、弾かれたように上を見上げたのだ。
――大変だ……地上にあるザイン鉱山の中で急激に瘴気が広がっている! このままじゃ、鉱山の中にいる人間がみんな死んでしまう……。
「フィヌイ様! だったら助けに行きましょう。瘴気って…村に広がっていたあの嫌な感じのする黒い霧のことですよね。だったら、さっきみたいに私が浄化してみせます」
――でも……ティア。
「大丈夫ですよ。私、さっきみたいに無理はしませんから……」
「今度は俺も行く! 聖女を守る護衛も必要になるはずだ……それに見て見ぬふりはできないからな」
次に見たときには、フィヌイ様はいつもの白い子狼の姿に戻っていた。そしてこくりと頷いたのだ。
――わかったよ。僕もできる限りサポートをする。二人とも僕の傍に集まって……地上にあるザイン鉱山まで移動するよ!
その瞬間、まばゆい光が輝き――ティア達は水晶洞窟からその姿を消したのだ。