聖なる場所へ
洞窟の奥へと――何も言わずフィヌイ様は子狼の姿のまま、てくてくと歩いて行く。
そしてたどり着いた場所は……洞窟の中にしては天井が見えないほど高く、大きな空間が広がっているそんな場所だった。
フィヌイは、がらんとした大きな空間の中央まで来ると、そこでピタッと歩みを止める。
「おい、何もないぞ……どういうことだ?」
「ここで行き止まりみたいですが……フィヌイ様、本当にこの場所でいいんですか」
―― うん! ここで間違いないよ。見た目は、ごつごつした岩壁にしか見えない広い洞窟の中にいるようで、なにもない所に見えるよね……でも、実はそうじゃないんだ!
フィヌイ様はあどけない子狼の姿で、自信満々に答える。
「……?」
「……」
ティアは小首を傾げ、ラースに至っては胡散臭そうな顔をしている。
私はどういう意味か分からず、口を開こうとしたその時――
突然の強い閃光! いや辺りが眩しい光に包まれたのだ。
ティアは眩しさに耐えきれず思わず固く目を閉じた。今まで淡くほのかに明るかった洞窟が、突然真昼のような強い光に覆われたのだ。
ようやく強い光もおさまり、私はゆっくりと目を開ける。視界の端を見れば、どうやらラースも同じように目を瞑っていたようで。
そして私の目の前には――大きな狼の姿をしたフィヌイ様がいた。
久々に見る純白の毛並みと精悍な顔立ち。威圧感があり勇猛でありながらも気品に満ちた風格。
こっちのフィヌイ様も、やっぱりかっこ良くって素敵だ! 尻尾とかの毛並みもさらに、もふもふして温かいしなあ……
うんうんと頷きながらも、その姿にティアはうっとりと見惚れていた。
だが……ほんわかした気持ちを吹き飛ばすように突然、隣で大音量の叫び声が聞こえたのだ。
「なんだこいつは――!! 古の大型の魔獣……フェンリルか!!?」
おや……? 大きな狼の姿したフィヌイ様は私にしか見えないはずなのに…ひょっとしてラースにも見えているのかな?
しかも、魔獣だなんて相変わらず失礼な……! この気品に満ちた神々しい風格。どう見ても、高貴な神様でしょうが!! フィヌイ様もいやーな顔してラースを見ているし、
「ラース! 落ち着いて。あれはフィヌイ様よ! ……いつもは、普通の人にも見えるように子狼の姿でいてくれるけど、大きな力を使うときは大体あの姿になるの。でも、本来は私にしか見えないはずなのに貴方にも視えてるってことよね?」
「ああ、見えるさ… この巨大な狼が、あの犬っころのフィヌイなのか……?」
――まったく…相変わらず無礼な奴だな。僕の神力を込めた貴重な石を持ち、加護も受けているから、本来だったらティアにしか見えない僕の姿が見え、声も聞くことができるっていうのに。まあ、これでだいぶ手間も省けたけどね。
なるほど、そういうことか……フィヌイの説明にティアは納得する。
――時間が惜しいから、そろそろ本題に入るけど。
「……。」
なおもショックを受け、呆けたままのラースを視界にとらえながらもフィヌイ様は話を続けたのだ。
――まずは、足元を見ればわかると思うけど……これは、僕がずっと昔に作った結界の上にティア達は立っている。
確かに足元を見れば、複雑な光の模様と知らない文字のようなものが浮かび上がった魔法陣の中に私たちは立っていたのだ。