神に導かれ進む
「ふ~ん、いまいちぴんとこねえ話だな。何か根拠でもあるのか……?」
私がこの国の主神であるフィヌイ様の言葉をラースに伝えたところ、失礼にもこんな感想が返ってきたのだ。
「な、フィヌイ様にむかってなんて失礼な! こんなにも可愛い子狼で、おまけに白くてもふもふなのに嘘なんてつくわけないじゃない!」
「お前……前から変な奴だとは思っていたが…やっぱりかなりズレてるというか、重症だな…。なんでそこでもふもふとか、可愛いって言葉が出てくるんだよ。こういう場合は普通に、この国の主神であるフィヌイ様が嘘をつくわけない! 私は信じている……!――とか、なんとか聖女らしく言えばいいだけだろ…」
ラースの鋭い突っこみにティアは気まずそうに、わざとらしくコホンと咳をすると、
「まあ、そういう話はおいといて……」
「おいとくなよ…」
「とにかく、フィヌイ様が嘘なんてつくわけないわ。私にはこの真剣な顔を見ればわかる! この顔は、とても嘘をついているようには見えないもの」
「ああ…そう…なのか…」
わざわざ犬っころの顔をこちらに向けると力説してきたのだ。彼には、フィヌイの顔が…いつもの見慣れた間抜け顔にしか見えない。ほんとうにラースはどうでもよくなり適当に相槌を打ったのだ。
ついさっきまで可愛いとかもふもふとか訳の分からないことを抜かし…今もめいいっぱい、また訳の分からないことを力説している聖女の言葉に説得力は全く感じられない。
――ティア…! 僕の言葉、信じてくれるんだね!
「当たり前じゃないですか……。私はフィヌイ様の神託を伝える聖女ですよ!」
青い瞳をウルウルさせている子狼姿のフィヌイを見つめ、その両前足をティアはしっかりと握り、もっともらしいことを言っている。完全に二人(?)の世界に入っていた……
「……何やってんだ。こいつら…」
この中で一番冷静な視点を持つ彼は、ティア達のやり取りを呆れながら見つめていたのだ。
「あのな…そんなことはどうでもいいから、しっかりと説明をしてくれよ…」
「フィヌイ様の肉球、ぷにぷにしていて凄く可愛かったのに……もうちょっとさわっていたかったな…ブツブツ」
彼の冷静な突っこみに、ティアはぶつぶつ言いながらも名残惜しそうにフィヌイの前足を離したのだ。
これでようやくまともな話ができるとラースは息を吐き、ふと視線を感じるとフィヌイがこちらを見つめていた。
――ふ~ん、なるほど……ラースは根拠を示してほしんだね。いいよ、それじゃ僕について来て! ちゃんと説明してあげるから。
フィヌイは尻尾を一振りすると後ろを向き子狼の姿のまま、てくてくと歩きだす。
私はラースにフィヌイ様の言葉を伝えると、彼は少し迷っていたようだがすぐに頷き後を追いかけて行く。私も、彼らの後を追い洞窟の奥へと向かったのだ。
こうしてティア達はフィヌイに導かれるまま、水晶洞窟のさらに奥へと進んでいったのである。