魔石について
「――なるほどな……この場所そのものが、特別な力が満たされた空間というわけか…」
妙に納得したようにラースは、大きな洞窟をぐるりと眺めたのだ。
ラースに、ここはフィヌイ様お気に入りの場所なんだよ――と伝えたら、そう解釈された…
……決して間違いではないが、そんなに堅苦しい場所ではないのにとティアは首を捻る。
私としては、温かく懐かしい心安らげる場所でいいと思うが……ああ、そうか。だからあんな夢を見たのかもしれない。
まあ、これはあくまで私個人としての感想だが、そんなに恐れ多い場所なのかと疑問に思ってしまう。
ラースはティア達から離れると、子供の大きさほどもある大きな水晶に近づくと静かに手をかざしたのだ。
間違いないな……ここの水晶は、魔力を増幅させる魔石だ。しかも長い年月をかけ、ここまでの大きさになるまで成長した結晶など初めて見る。
ザイン鉱山の真下には洞窟があり、その内部には…ここまで大きな魔石の結晶がごろごろしているなんて、誰が想像しただろうか…正直、驚きを隠せないでいた。
それにこの場所、膨大な魔力の根源のようにも感じる。
彼の推測では、ここにある膨大な魔力が結晶となり魔石を生みだし、洞窟内に収まり切れない魔力が上のザイン鉱山に浮上して結晶となり、少しずつだが、魔石が採掘されるようになったと考える。
今まで採れていた魔石はそれだけでも貴重だと言うのに、こんな場所まであるとは……
これは報告しなければいけない事案だろうとそう思った、その時――
じーとこちらを見つめる、ただならぬ気配を感じたのだ。
ハッとして後ろを振り返ると、そこにいたのは普段は無害な子犬のフリをしているフィヌイの姿。
顔は普通の犬っころの表情だが、目をキランと輝かせ、短く尻尾を振りこっちを見つめているのだ。
だたそれだけなのに、とてつもない威圧感と背中に冷たい汗が流れる。
この目は、お気に入りの場所を荒らすような真似をしたら後でどうなるかわかっているよね? とか言っているのだろう。
その瞬間、ラースは息を短く吐いたのだ。
そうだった―― 半分騙されたような形でこいつと契約をかわしたもんだから、俺はこいつに呪いをかけられていたんだ。
加護どころか、機嫌を損ねると天罰という名の嫌がらせを毎回…毎回受けているし……
頭ではわかってはいるが、こんな生意気な犬ころだからつい反発してしまうのだ。
ダメだ、ダメだ……詳細な報告すれば、こいつの天罰が下るだろう。
仕方ない……詳細は諦め、当たり障りない報告するしかないなと…彼はこの件に関して、上への詳細な報告は諦めることにした。
さて、それは別の話として……もうひとつ考えなければいけないことがある。
そう…奴らの――『ウロボロス』の目的についてだ。
あいつらにどんな目的があってシャラー村と鉱山を占拠したのか? やつらの本当の目的は一体なんなのか?
最初はこの鉱山で採れる……魔力を増幅させる「魔石」が目的だと思ったが……どうやら別の目的もあるような予感がするのだ……
ラースは、今はティアに抱き上げられ、耳の後ろを撫でられて呑気にくつろいでいる白い子狼の姿をしたフィヌイを見つめたのだ。