これまでの経緯
「その綺麗な石は……?」
ティアは小首を傾げると、フィヌイ様は狼の耳をぴんと立て、得意げに説明をしたのだ。
――ふふふふふっ、やっぱり気がついたよね! これは、僕の探していた神力を蓄えることのできる宝石。でも、人の間では「魔石」ともいうけどね。
そのまま私の腕の中からフィヌイ様はぴょんと跳び下りると、口にくわえていた綺麗な石を地面の上に静かに置いたのだ。
――ティアの治療が終わった後に、相性が最も良さそうな宝石を洞窟内を見て探したんだ。そしてこれを口にくわえて、湖に入って禊をしながら僕の神力をゆっくりと時間をかけて石に宿す儀式を行ったんだよ。とーても神聖な儀式だから、結構時間がかかったんだけどね。
「なんだ、そうなんだ。てっきり水浴びをして遊んでいるのかと思いましたよ」
――ええ! ティアったらひどい~ ……灰色から白い子狼にもどるために水浴びついでに、あまりにも水が気持ち良かったから湖をしばらくの間、泳いで行こうなんて絶対に考えてないってば!
「……?」
ひょっとして本当に泳いで遊んでいたのでは? ――とティアはまたしてもそんな考えが頭を過り、
だがその時――
「おい! お前らだけで話してないで、ちゃんとこっちにも説明をしろ。俺はこの犬っころの指示で、気を失ったお前をここまで苦労して運んだんだぞ」
ここでラースの苦情が聞こえてきたのだ。
あ、そういえば私たちだけ話して……完全にこいつの存在、忘れてた…どうしよう
ティアは気まずそうに頬をかくと、ラースに向き合い。
「そうね、ちゃんと説明するわ。でも…その前にここって一体どこなの? 私の記憶では確か村はずれの草原にいて、そこで気を失ったところまでは覚えているんだけど…」
「そうだな。俺もしっかり説明したほうがいいか。ここは、シャラー村のすぐ近くにあるザイン鉱山だ。正確にはその内部に当たる場所だろうよ。なにせお前を担いで鉱山の裏側から今は使われていない廃坑のひとつに入った途端、この犬っころが真下に穴を開けて、尻尾で叩いて俺を突き落としやがった。……で気がついたらこの洞窟にいたってわけだ」
「――ぎゃう、ぎゃう、ぎゃう!」
――真下に穴を開けるって心の広い僕が親切にも教えたじゃないか! それにちゃんと着地できたし。結果良ければ全て良し。とにかくお前は聖女の護衛なのに文句が多すぎるぞ!
フィヌイ様はラースの言葉に猛反論していた。でも……ラースにはぎゃうぎゃうしか聞こえてないんだよね。と思いながらも私はいつものようにその言葉をなるべく、柔らか~くソフトな言葉に通訳したのだ。
この二人(?)って、ただのコミュニケーション不足なのか? それとも相性が悪いだけなのか、それはわからないが……ティアは間に挟まれ調整するのにいつものことながら手間どっていた。
眠りから起きて早々、苦労が絶えないような気がするが、気のせいだよね。
そしてラースには、今までの私とフィヌイ様の会話の内容をすべて話し終えたのだ。