ゆっくり過ごす
ティアは呆然とし、膝の上で寝たふりをしているフィヌイを見つめていたのだ。
もふもふで愛らしい姿をしている神様を見ていると、なんだか複雑な気持ちになる。
神託っていったい・・。
人から見れば神からの大きな啓示に見えなくもないが、実際には神様が自分で像を蹴り落しただけって、どうなの・・
いや、それよりも主神であるフィヌイ様がいなくなったって神殿の人たちが気づいたら、ここでゆっくりお茶なんか飲んでいる場合じゃないかも早く逃げないと、
――それは大丈夫。今は神殿の奴らは動けないよ。かえって、今日はじっとしていたほうがいいよ。
頭の中にフィヌイ様の声が響いた。
それはどういうことなのかと質問しようとしたとき、
「ねえ・・ティア、大丈夫。どこか身体の具合でも悪いの?」
アイネ先生の心配そうな声に、はっと我に返ったのだ。
「いえ、その・・、だ大丈夫です。何でもありませんから」
「そう、急におかしな顔で黙り込んだから具合でも悪いのかと」
「ちょっと・・考え事をしてしまってハハハ・・」
手を振りながらぱたぱたと笑ってごまかす。
これからフィヌイ様と話をするときは気をつけないといけない。
「それにしても神殿は、午後の天赦祭はどうするつもりかしら?神託が下ったかもしれないというのにこのまま続行するの・・」
「あ、今日は天赦祭でしたね」
いろいろありすぎてすっかり忘れていた。
天赦祭とは年に二度、夏至と冬至の日に午後の一刻だけ聖女が民衆の前に姿を現す行事だ。
民衆の中から選ばれた数人が、神殿の中へ入り、聖女の奇跡である治癒を受けることができる。
だが蓋を開けてみれば、お布施の金額が多い人だけが呼ばれているだけだ。
それでも民衆は、普段は神殿の奥深くにいる聖女が自分たちの前に姿を現してくれる特別な日。観光客も含め大勢が押し寄せ、街は午後からお祭り騒ぎとなる。
せめてその姿を一目見ただけでも幸せが訪れると信じられているが・・ティアには不幸しか訪れなかった・・・
が、いや待てよ。
不幸の最後には、神様と話ができるという大幸運に恵まれたではないか。あながち嘘ではないのかもしれない。ということで愚痴を言うのは止めておくことにしよう。
「でも、ここでいくら考えても私たちには関係のないことよね。ティアも今日はゆっくりしていきなさい。さっきの話では王都を離れるってことだったけど、出発するなら明日以降にしなさいな」
「泊めてくれるんですか?」
「ええ、そのつもりだけど、もう出て行ってしまうの?」
「いいえ、本当に助かります!」
ティアは顔をぱっと輝かせると、アイネにお礼を言う。
「それじゃ、そろそろお昼ごはんにでもしましょうか」
アイネは席を立つと、扉を閉め廊下へ去っていったのだ。