5提案
目の前には打ちひしがれるように肘を机に立てて両手を組み合わせ、そこに額を押し当てている、旦那様。
「旦那様」
「......うん? なんだい?」
「この結婚、誰でも良かったと言う認識で問題ありませんか?」
「ぐぬ......だ、誰でも......」
「はい。私の事はお気になさらず。驚きはしましたが、おかげで家業は持ち直しそうですし......元来結婚自体に夢を抱いていたわけではありませんので......」
それに私はこんな見た目ですし。
ボソリ、と付け足す。
お姉様に何度も言われ続けた言葉。
夜会でもみすぼらしいと何度も言われてきた。
「そんな! いや......そうか......すまない。改めて聞くと随分と......うん......酷い......」
「そうですよね......」
ずきり、と胸が痛んだ。言われ慣れているとは言え、こうも真っ向から言われると、少々、悲しい。
しょぼくれて旦那様を見れば、何故か旦那様もショックを受けたように項垂れている。先ほどよりも随分と頭は下に落ち込んでいる......!な、なんでだ?
「あの、旦那様。きっと私がここに、この場所に来るまでに何かあったのかと思うんです。そうでなければ、このように強引な婚姻とは至らないと思うんです......」
「強引」
ガクン、とさらに落ち込む旦那様。
ちょ、そんなに落ち込まなくとも......!
あれ、なんだか面倒くさい?ううん、ここは私が話をリードしなければ。
接客業をしていた腕をここで見せずにどこで見せるのベリル!
「旦那様、私はこの婚姻に驚きこそしましたが、私は悲観しておりません。旦那様が望むような妻に慣れるかは正直自信はありません......」
「ベリル嬢」
「ですので!」
ちろりと視界にレオンを捉えると、パチリと目が合う。私は大きく頷いた。
これが私が考えついた案である。
私も損をしない。
そして旦那様も。
最初は吸血領主と聞いていたし生贄コースなのかと恐れていたから少しでも使えるアピールをするためだったが、どうやら旦那様は少しばかり話の行き違いを憂いているので、その罪悪感が無くなる素敵な案。それがこれ。
「私、なるべく必要な事はなんでもいたします」
「なんでも!?」
ひゅっと息を盛大に吸い込んだ旦那様は、声を裏返らせてよくわからない部分で動揺していた。が、本題はそこでは無い。
「私を雇ってください。従業員妻させていただきます」
へ?と気の抜けた返事と共にシン、と静かになった空間。その沈黙を破ったのは、旦那様その人だった。
「従業員......妻?」
「はい。先ほども言いましたがこの結婚には何か理由があるように感じてます」
「それは......」
それは確かにそうだ
そんな声が聞こえそうな間に、私はうんうんと頷く。婚姻を迫る令嬢避けでも良いし、世間体を守るためでも構わない。
吸血領主と言う不名誉な名前の払拭でも、なんでも。
「なんであれ、しっかり勤めさせていただきますね」
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