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幸せの風が呼ぶ方へ【未来】

※未来編です

ほんの少しですが、未来の話ですので、苦手な方は読まなくても大丈夫です。





 東の先にある、ある領地はここ数年で随分と明るくなったらしい。

 明るく、というのはさまざまな意味を持つ。

 その土地に住む人が増え、名産品も増え、交通の便も良くなった。小さな町もでき、活気が出てきたという。

 それを人々はみんな「明るくなった」と表現した。

 

 

 この国には、不思議な力を持つ宝石があった。

 それは豊かな富を国にもたらし、時に奇跡の力を見せた。


 宝石がどうやって生み出されているのかは謎のまま。

 どこからやってきて、どこへいくのかも秘密なのだ。






 空は青く、よく晴れた暖かい日、頬を撫でる風は涼しく心地よい。屋敷を出て、長い森を抜けた先に広い丘がある。

 たくさんの花が咲いた丘を、パタパタと駆け回る足音が聞こえる。

 駆け回るたびに、足にぶつかった花が空中に舞うtお花びらの雨を降らしていく。


「遠くまで行ってはなりませんよ!」

「大丈夫よ、ベルさん。ほら、帰ってきた」

「まぁ、あんなに花を抱えて」


「おかあさまー!ベルー! みてー」


 戯れるウサギのように軽い足取りでピョンピョンと跳ねるように駆け寄ってきた子供は、両手を広げてたくさんの花を、二人の女性に手渡した。


「ベルとね、おかあさまに!」


「まぁ、なんてお優しい」

「ふふ、ありがとう、ベン」


「とぉっても、きれいだよ!ふたりともきれー!はい、サフィーにも、どうぞー」



 そう言って母親の腕の中で眠る小さなレディーにも一輪、白く美しい一等形の綺麗な花を、そのふっくらとした桃色の頬への口づけと一緒に捧げた。「きれーだよ、サフィー」という言葉を添えて。


「ベン様のおかげでお美しいですよ、サフィー様」

「ベルもかわいいよ」

「まぁ!」




 領地は少し賑やかになってきたが、アトランド家の生活はさほど変わることはなかった。


 変わったことといえば、私と旦那様の間に二人の子供が生まれた事くらいだ。旦那様は、結婚式を挙げてからというもの、一層私を愛してくれた。その愛情を、今私は子供たちに注いでいる最中だ。


 子供が増えたことは大きな変化ではあるが、それでも使用人の数は変わらない。この屋敷の秘密はやはり秘密のままなのだ。

 しかし突然やってきたこの小さな新しい家族に屋敷の使用人たちは虜になっている。

 ベルさんは毎日丁寧に子供の支度をしてくれるし、レオンさんは意外にも、口では「子供とか面倒見たことないですよ」と言っていたが、兄役として面倒を見てくれている。

 料理長は、子供のおやつを作るのが生き甲斐らしく、毎日研究を重ねては甘すぎない子供用のお菓子を作ってくれている。



 すっかり甘やかされているはずのベンは、不思議と大したわがままは言わずに、妹の面倒をよく見るいい子に育ってくれている。


 しかし、どこで覚えてきたのか、ベンは女性に対してとても上手な言葉を使うし、とても優しいのだ。

 何だか将来が不安になる気もするが、だからと言って男性に特段冷たいというわけでもない。

 どこからか女性が喜ぶ言葉を仕入れている、と言った方が適切かもしれない。


 まだ4歳だというのに。


 誰が知恵を授けているのかと思えば、どうやら時々やってくる第二王子殿下が一言二言残していくのだそうだ。殿下の言う言葉はいつだって力強く、説得力を持つので、きっとベンは真剣に聞いているのだろう。


 特に2歳になる小さな妹のサフィーには一等甘く、いつだって一緒だった。


「サフィー、おかあさまが作ったパンだよ、はんぶんこ、しようねー」


「ぱん!」


 味の薄いスープや潰した野菜から、ようやく固形の物が食べられるようになったサフィーも一緒に食事をとるようになったある日、ベンがそう言って、青い瞳をキラキラとさせて、小さなまんまるのパンを二つに分けた。


 そんな言葉が、食卓から聞こえると、旦那様が「ふふ」と微笑んだ。笑みは、子供達から、私にうつると、さらに幸せそうなものに変わっていく。

 


「うんうん、ベンは優しいね。ベリルそっくりだ」


「私ですか?」


「ほら、昔、小さな君がしてくれた事と一緒だ」

 

 覚えていないかい?と紅茶のカップに添えられた小さなクッキーをパキっと半分に割ると、私の目の前に差し出した。



「こうやって、半分こ」


 ふふ、と微笑む旦那様が唇にふに、とクッキーの片割れをくっつけた。


「あーいっしょ!」

「いっしょ」


 ベンが嬉しそうに言えば、それを真似してサフィーも辿々しいながら同じ言葉を発した。


「そうだね、いっしょだ。誰かに分けてあげられるのは素敵なことだよね。僕もベリルお母様に教えてもらったんだよ」

「おかあさまに?」

「そうだよ」

 旦那様はそう言ってにっこりと微笑むと、ベンの頭を撫で、サフィーの頭も撫でた。


 それを受け入れた二人は、幸せそうに、無邪気な笑みを浮かべた。


 あまりにも幸せな光景に、自然と笑みが浮かぶ。初めは自分こんな生活がやってくるなんて思っても見なかった。

 

「私は、ここに嫁げて……旦那様と結婚できて幸せです」

 込み上げてきたものを我慢できなくて、つい脈略もない言葉が口から出た。

 それを咎めるわけでもなく、にこりと微笑むと、

「こちらこそ、僕と結婚してくれてありがとう」

 そう、旦那様が答えた。


 思わず口から出た言葉は、あまりにも突拍子もなくありきたりな言葉だったが、それは間違いなく本心で。

 

 ほわりと、胸に暖かな光が灯る。



 東の端の領地は明るくなったらしい。

 領主が迎えた奥様と、その子供たちが長い冬から春を呼んで、今、暖かい風が吹いている。




未来編です。

お読みいただきありがとうございます!

ヴァンとベリルの当たり前が、ちゃんと子供たちにもつたわってるよ、というお話でした。


面白かったと思っていただけましたら是非下部の☆☆☆☆☆より評価いただけると嬉しいです

★★★★★おもろかったよ

こんな感じで★をお好きな数だけ評価いただければ幸いです!

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