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33決着の付け方2



 無数の光が部屋中に広がり、弾けると、金の粉がぶわりと宙を舞う。それが一箇所で大きく渦巻くと嵐の様な風がビュウと吹いた。

 思わずきゅっと目を閉じて、風が止むのを待つ。


 一体何が起こったのかもわからないままでいると、「きゃああ」とお姉様の声が聞こえる。


 そろり、と目を開けようとした、その瞬間、重かったお腹の上の重さはなくなり、ふわりと体が浮き上がった。

 何が起こるのか、ギシギシとあちこち痛む体が地面に叩きつけられるのではと心の中で覚悟する。だけど、その痛みはなかなかやってこない。


 恐る恐る、目を開くと、金の粉が渦巻く中心にぽっかりと空いた穴と目が合う。


 そう、目が合った。

 大きく見開いたサファイアのような青い瞳がこちらを見る。

 それは見覚えのある、青で。


 パン、と金の粉が弾けて散り散りになると、浮き上がった体を暖かい何かが包み込んだ。


「ベリル、大丈夫かい?」

「……旦那、さま?」


 ついに幻覚まで見始めたかと思ったが、そうだよ、と優しく微笑む姿は確かに旦那様だった。

「精霊が……?」

「そうだよ。精霊が来たのかい?……だったら君はあの家の主人であると受け入れられている証拠だね」

「しゅ、じん?……いたっ」


 話すと口の中の傷に歯が当たり、じくりとした痛みが走る。


 キュッと私を抱きしめる腕に力が入ったのが分かった。

 心配そうに、覗き込む旦那様は、唇を噛む。形のいい唇に歯が食い込み白くなってしまっている。そっと、優しい手つきで私の頬に手を添えると、頬の傷に触ってしまったのか手が赤く染まる。綺麗な旦那様の手が汚れてしまうのが嫌で、身を捩ると、その手の動きは止まった。

 しかしそれは一瞬間だけの事で、目元の涙を掬い取るようにひと撫ですると、私はゆっくりと床に降ろされた。


 その拍子に、膝に上手く力が入らずぐらつくが、旦那様が支えてくれたおかげでなんとかこけてしまわずに済んだ。


「いったい、ここは? お父上はどうした?」


 旦那様の声が、部屋に響く。家具も何もないこの部屋では声がよく通った。


 彷徨った旦那様の目が、床に転がって震えるお姉様を見た。

 突然起こった嵐のような風に吹き飛ばされたのか、よろりと足を引き摺る様に立ち上がる。

あ、あ、と言葉にならない声を溢して、よろよろと後ずさる。



「あ、あ、何が、なんで……化け物、化け物だわ……!」

 

 震えるお姉様が、頭を抱えると、手に握るものがころりと床に落ちた。

 それはお姉様が私から奪った耳飾りの片方だ。


 慌てて転がったものに飛びついた。

 その様子はまるで何かに取り憑かれたようだ。 

 拾い上げた物を見ると、それまで笑んでいた顔はだんだんと表情が落ちていく。口の端がひくりと動き、しばらくして、「あれ……?」とポツリと声が漏れ出たのが聞こえた。


「なんで! 割れて……? 色も変わっているじゃない! これはなんなの……宝石ではない……騙したの……? 騙したのね」

「これはそう言うものだ」

「……はぁ? なによ、なによ、それ! 馬鹿にして……!」

「理解はしなくて結構だ、それに」


 


 部屋の向こう、廊下から、足音が聞こえてくる。音はどんどん大きくなり、数も一つや二つではない。

 ——カツカツカツ



 ガッ


 扉に振動が響き、ビーン、としなる。

 また、ガンガンと大きな音が扉から鳴ると、ミシミシと木が軋む音が鳴り、蝶番が外れ落ちカランカランと床にぶつかり音を立てる。


 そして、鍵が閉められていたはずの扉が、バタンと大きな音を立てて崩れ落ちた。


 扉が床に落ちると埃が舞い、視界を塞ぐ。

 崩れた扉から、微かに美しい金が見える。



「ここか」


 扉の残骸を踏み越え、部屋に押し入って来たのは、金の髪と金の瞳を持つ、この国の王族、クリスフォード第二王子殿下、その人だった。

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