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32 決着のつけ方




 ぶち、と耳の近くの髪が根元から千切れ、抜ける音が聞こえ、髪の毛引っ張り上げられていることに気がついた。


「それが何なの?」

「っ、はっ……」

「愛が何? 笑わせる、それが何になるって言うの?」


 冷たい目が、私を覗き込む。

 その細い腕のどこから力が出るのか。

 近づいたお姉様からは濃い甘い匂いが漂っている。


「美しいから、貴族にだってなれた……みんなに愛される。何もかも手に入ってた! あんたが居なくなれば、私のものになるわよ!」


 ぶちっと耳から何かが離れる音がした。

 お姉様の手には旦那様に頂いた耳飾りがきらりと光る。美しい青は、私の血がついてしまって汚れている。


 悔しい。

 旦那様から貰った大事なもの。

 涙が溢れてくる。


「そうね、あなたから貰った、要らないって言ってた。辺境領主の妻は分不相応だった、重荷だから姉に譲る、とでも、手紙に書いてもらおうかしら……」


「……お姉、様はオリバー様とご結婚なされたのに、なぜ……?」

 オリバー様を愛していいたのではないのか。

 あんなに結婚と聞いて喜んでいたのではなかったのか。



「貴族だったからよ、それ以外に何かあるわけ?」



 お姉様の顔が、クシャりと歪む。

 苛立たしげにこちらを見る瞳は、奇妙なものを見るように細められた。


「……それ、だけで?」

 口を動かすと、切れた唇がズキリと痛む。


「そうよ。オリバー様が貴族だったからなんだって自由にできた。私を選んでくれたから! 小鳥が何人居たって、どうせ売られるんだから、全然苦しくなんてない。何でも持ってるのよ! 彼に誘われれば、薬でも何でもやったし、うちの店を使って密輸だってやるの! だってそれで貴族でいられるんだもの! だからあんたの方が優遇されるなんて合ってはならないんだから!!」


 肩で息をするほどの大声は、部屋中に響き渡って、床がキシキシと音が鳴る。


「……もう片方も渡しなさい……」


 血を這うような声が、私に降りかかる。

 私を見下ろすお姉様の顔は、恐ろしい形相で、もうそこには優美さも、麗しさも、儚さも存在しない。


 執着と執念がざわめく、まるで鬼だ。


「……渡さないわ、お姉様には」


 絶対、渡せない。

 

 初めて、簡単には譲りたく無いと思った場所だ。キッとお姉様を睨んで、手を押しのけ、取られてしまったもう片方の宝石に手を伸ばす。それは、旦那様が私を心配して渡してくださったものだ。

 御守りだと渡してくださったものを、どうして他の人にあげる事ができる。


「何その目は」

 お姉様の目が、吊り上がり、怒りで燃えるのが分かった。わなわなと小刻みに震える体は、気に入らないと、全身で訴えている。


 ぐんと近くなったお姉様の顔、そして手が私の首に掴みかかるのは一瞬だった。

バサバサと私の両頬を掠めて落ちる金の髪は、視界を覆い隠す様カーテンのように覆い被さって私とお姉様の世界になった。


「っぁ、はっ……」


「あんたさえ、居なくなれば……!」


 ギチチ、と指に力が入り、首の肉に指が食い込んでいく。


 どんどん腕に力が入らなくなって、瞼も重たい。涙が溢れて、傷に触れても、苦しくて痛みも分からなくなる。

 目をギュッと閉じて、浮かんだのは、つい最近まで一緒に居た家族じゃなく、ベルさんや、レオンさん、料理長や、そして旦那様の顔だった。


 

 旦那様、旦那様に会いたい。——嫌だ。盗られたくない、助けて、助けて旦那様……!


 

 突如、パキン、と何かが割れる音が聞こえた。


 もがいて、荒い息が切れる中、それは鮮明に頭に耳に届いた。


 キン、と耳鳴りの様な空気が震える音が響く。

 驚いて、目を開けば。


 ——ふわり


 空気が、時間が止まったかの様に、ふわふわと目の前に現れたのは、光の塊。

 

 あの秘密の扉の向こうに居た、精霊の姿。


 

 ————願いを——叶えるよ————



 光の塊が無数に目の前に広がると、パァンと光が弾けて、部屋中に眩い光が広がった。


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