2実家を追い出される
私を追い出すという今までにない快感を味わった姉は、足取り軽く夜会に出向くための用意をすると2階の部屋に消えていった。
そこは我が宝石店が保管する宝石や装飾品がある場所だ。
そこはお姉様が気に入った装飾品が所狭しと並んでいる。
そういうことを許しているから、今うちの宝石店はお金がないのに......。
本当は売り物であったが、彼女が気にいるなら渡せとお父様が言うので、お姉様は売り物からちょろまかして好き放題しているのだ。他所で買うよりは安いと思っているみたいだけど、店の収入が増えなければ、売り物の宝石だって買えないのに。どうしてそんな簡単な事もわからないのかと思うが、私に意見を言う権利はない。
......きっと夜会で嬉々として出来の悪い妹を追い出した物語を語るつもりなんだわ。考えただけでも憂鬱な気分だ。
悪すぎる噂が立てば、社交界なんてあっという間に弾かれてしまう。
今の流行りが何か、自分を着飾ることには全く興味がないが、流行の服や素材、装飾品を調べるのはとても好きだったのに。
「おい、もたもたするな家の前に辺境領主の馬車が来ている。待たせては失礼だろう! その辛気臭い顔をしまってさっさと出て行け」
「ちょ、そ、そんな、あっ」
ぐいと押されるがままに外に押し出されると、バタン、と無情にも私の言葉は何一つ伝えられないまま扉が閉まっていった。
店の前に停まっている馬車の従者がほんの少し気まずそうに眉を下げ、ぎこちなく馬車の扉を開いた。
ギギ、と音が鳴る。この軋む音は、まるで私の心からなっているようだった。
◇
「奥様、本当にそれだけでよろしいので?」
「はぁ......」
奥様。
その呼び方くすぐったいような、奇妙な感覚がして、従者に妙な返事を返してしまった。
それをどう取ったのか、彼は一瞬間ポカンとした表情を作ったが、にっこりと笑うと背筋をピンと伸ばして美しく腰を折った。
仕立ての良さそうなコートを羽織った小柄な男性だ。金の髪が爽やかで、少年らしさを演出している。所作を見ると随分と洗練された物であるが、見た目だけで言うと、もしかすると私よりも年下かもしれない。
「ああ、失礼しました。僕の名前はレオン。奥様や旦那様の移動、そして物を運ぶときにお供いたします。なんでもお申し付けくださいね!」
気持ちの良いほどの快活さに緊張が解けていく。ハキハキと話す青年は気持ちがいいほどの笑顔で中にエスコートしてくれる。裏表がなさそうで、とっても、うん。モテそうだ。
差し出された手を取れば、存外近い距離にある顔がふわりと微笑んだ。
「あ、ありがとう」
「とんでもございませんよ、奥様。足元にお気をつけてくださいね」
「はい......」
中へ誘導され、腰を下ろすとぱちっとウインクが飛んできた。お調子者のような仕草に、ほんの少しだけ不安が飛んでいく。
「あの、レオンさん」
「はい?」
扉を閉めようとするレオンさんがその手を止めてきょとんとした表情でこちらを仰ぎ見た。
「あの、ありがとう。緊張がほぐれました」
「……それはよかった。随分と不快な会話が聞こえてきておりましたので」
「え!聞こえていたんですか!失礼な事を……すみません……」
恥ずかしさで身を縮みそうだ。
顔に集まる羞恥からくる熱に、涙が出そうになる。彼は辺境領主様の従者だろう。心地の良い話ではなかったはずだ。
「いえいえ。問題ございません。……、と…は……くらい……から」
「え?」
「いえ! では参りましょう!」
「あ、はい……」
ボソリと呟いた最後の言葉は聞こえなかったが、ニコニコと気にしていないように扉を閉めたレオンさんを呼びつけてもう一度確認するのもなんだか悪いので、ぼんやりと外の風景に目をやった。
ゆっくりと流れる風景と、小さな振動に考えるのをやめて目を閉じた。
ーーーーーーーーーー
「僕にとってはそう思われていた方が都合がいいくらいですから、ってね」
輿入れだと言うのに、追い出されるように出てきた女性を馬車に乗せると、彼女が出てきた宝石店に向けて従者であるレオンはべ、と舌を出した。
ブル、と待ちかねたように馬が鼻を鳴らすのを聞いて手綱を引くと、ゆっくりと馬車の車輪が回り出す。
数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。
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