17 夜会1
着いたお屋敷は、さすがは第二王子主催というだけあって、華やかで、大きく立派なものであった。
もはやお城のような佇まいの建物には入り口に騎士が立っており、ドアマンが丁寧に招待状の確認をしている。
毎回参加する人数などは違うようで、秘密裏のものや、限定的なものもあれば、本日のように大々的に開かれる開放的な夜会もあるのだ。身分の高いものや、お金持ちの者達が集まる比較的閉鎖的な社交場だ。
馬車を裏に回すからとレオンさんと別れた後、扉を潜って中に入れば、赤い絨毯の道が現れる。長い絨毯の道を辿っていけば、数分もしないうちに大きなホールに辿り着いた。
両開きの扉は大きく開いており、大胆に広がった空間には、豪奢なシャンデリアが天井にいくつもあり、キラキラと光っている。
その空間は一際輝き明るい。
その輝きの下にはシャンデリアに負けずとも劣らない、着飾った夫人や紳士たちがすでにたくさん集まっている。誰もが華やかな装いで、ご夫人達も見事なドレスを身に纏っており色も鮮やかで、まだホールに足を踏み入れてはいないというのに見惚れてぼんやりしてしまう。
その中でも一際大きな塊を作っている場所があった。
「おそらく、あそこは第二王子のダラン殿下がいらっしゃる場所だろう。僕たちは落ち着いたらご挨拶に伺おう。彼は顔が広いから」
「あ、はい。旦那様と第二王子殿下はお知り合いなのですか?」
「うん。とは言っても父が献上品を王家に届けていた頃のだから、彼が覚えているかはわからないけどね」
「わかりました。それでは少し………」
「ヴァン!」
ホールや客人達の装飾を眺めたい、と言おうとすると背後から大きな声が響く。
そこには、体格の良い顔に傷のある男がにこやかに手を振っている。
背丈のある体は、近寄ればその大きさがよくわかる。旦那様以上に大きい。どれくらい大きいかと言えば、今この空間にいる人たちの中で頭一個分ニョキっと飛び出しているくらい大きい。
「あれ。忘れたのか?俺だよ俺」
「アーノルドか」
「覚えてるんじゃねーか」
「おっーと、俺も居るよ」
「トム」
長身の傷の男の人の後ろから、ひょっこりと顔を出したのは、小柄な男性だった。どことなくレオンさんに似ている雰囲気があるが、レオンさんの軽いノリと軟派な空気感に対して、トムと呼ばれた小柄な彼は元気そのものな感じだ。
「アーノルドもトムも久しぶりだね」
「だな! 随分雰囲気変わったな〜! 何年ぶりだ? 3? 4年か?」
「6年ぶりだバカ」
ドス、と小柄な男性、トム様ががケリを入れれば、「あはは」とアーノルド様が楽しげに笑う。
一つも痛くはなさそうだし、旦那様も気にしていないようなので、これが彼らのいつものやり取りなのだろう。
「とりあえず中に入って、飲み物でも飲もう。話はそれからだ」
アーノルド様がそう、カラカラ笑うと壁際に置かれたテーブルを指差した。
こういった場所には慣れているのか、迷いがない。「もちろんそちらの美しい御令嬢についても詳しく聞かせてくれ」とパチリとウインクが飛んできたが、一瞬誰の話をしているのかとキョロキョロすれば、不意にくい、と手を引かれた。
「え」
すぐに手が離れてしまったが、不機嫌そうな旦那様の顔がすぐ近くにやってきた。
「ベリル、君はこっち」
私とアーノルド様の間に割り込む事に成功した旦那様を見上げれば、その奥から顔を出したアーノルド様と目が合った。キョトンとした顔がこちらを見る。それとほとんど同時に旦那様から「ダメ」と一言。
アーノルド様は私、というよりも旦那様を見ていると思うのだけど。
◇
大きな門のような扉をくぐり抜ければ扉の外よりも一段と賑やかで、人々の話し声で溢れている。こんな華やかで賑やかな夜会は一体何年ぶりだろうか。少しばかり背筋が伸びる思いだ。
ホールに入ると、まるで大きな波が立ったかのようにザワリと辺りが騒がしくなった。
「まぁ、あれは第一騎士団のアーノルド様よ」
「トム副団長様もいらっしゃいますわ」
「あちらの美しい方は誰?」
「御三方とも素敵だわ」
「あ、あのブローチもしかして噂の……?」
「長年姿をお見せにならなかったアトランド家の御子息ではなくて?」
至る所からヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
どうやら彼らは有名人なようだ。旦那様も含めて。
「はぁ、だからこういう集まりはあんまり好きじゃないんだ」
「そう言うなよ、ヴァン」
トム様が宥めるように言うと、旦那様は再度はぁとため息をつく。
それがどういった意味なのかはわからない。
「どうぞ、お嬢様」
するりと人の隙間を縫ってやってきたのは給仕の男性で、その手にはトレーに乗せられた飲み物が載っている。
パチンパチンと弾ける泡が閉じ込められたグラスを手に取れば、にっこりと微笑んだ。
とても感じがいい。やはりさすが王子主催の夜会だと感心せざるを得ない心配りである。
しかしそれも束の間、旦那様がグラスを受け取ると、給仕の耳元でボソリと囁いた。
その途端に給仕の男性は顔を青くして「失礼しました」と一言残して去っていった。
な、なんだろう。
ーーーーーーーーーー
「おいヴァン、お前……心が狭いなぁ」
「………そんなことはない」
「あるだろうよ」
「うるさいぞアーノルド」
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