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10 秘密






 じゃり、じゃりと土と石が混ざる音がする。


 少しばかり進んでいくと、曲がり角が現れた。

 そこからは明らかに何か明るい光が漏れ出していて、そこには何かがあるのが分かる。

 煌々と明るいと言うよりは、ぼんやりと光る物がいくつかあり、それが洞窟内を照らしている、そんな感じに思えた。答え合わせをする機会は思っていたよりも早くやってきた。


 角を曲がると、そこは広い広場のような場所が広がっていて、真ん中に小さな噴水のような物と、簡素なテーブルと椅子。そして壁にもたれかけるように木箱が重なり合って配置されている。

 


 今にも倒れそうではあるが、絶妙なバランスで重なり合った木箱を見ると、旦那様は意外にも雑な性格なのかもしれない。

 あの木箱を積んだのが旦那様であるならばだけれど。


 光の正体はいったなんなんだろう……。


 小さな噴水からパシャパシャと水が出ていて、そこからかと近寄ると、不意に足元がぽわりと発光した。



「あ、え! 私、光ってる? あっ、これは……!」

 

 パッと足を退けると、足元の土がふわふわ光を発していた。

「これは……!?」


 よく見れば、足元、そして、周囲の地面も光り始め、壁や天井も不規則に光を放っている。

 何かの信号のように点滅する光に、息を呑んだ。


「これが僕の秘密だよ」


 旦那様の声に振り向くと、旦那様がこちらを見る目が髪の隙間から溢れ見えた。

 その瞳が、細まる。


 ——ふわり


「!」



 旦那様の周りには、足元や壁で光を放っていた光が、まるで生きているかのように旦那様の周りで無数の光の粒となって浮遊していた——!


「彼らはこの屋敷の主なんだ」

「ある、じ……?」


「そうだよ」


 ごらん、と差し出された手のひらの上にふわりと落ちてきたのは、ピカピカ光る光の玉。


 呼びかけているのは、私にではなく、光に向かって。


 ふわっと風が私の首筋を駆け抜けて、私の周りにたくさんの光が集まってくる。

 すり抜ける風が肌を優しく撫で付けていくので、少しくすぐったい。

 髪を縛っていたせいで、首筋や頬に遠慮なく風はぶつかってくる。


「わ」

「そのまま、じっとして」

「え、は、はいぃ」



 くるくると様子を伺うように周囲を舞う光は、やがて動きを止めて、ふわん、と目の前を陣取った。


 チカチカする光が、鼻のすぐ先にスイとやってきた。

 花びらのようなそれは、明らかに意思を持って動いている。なんだか試されているような、見定められているような、そんな感じだ。


 見られている。

 まさに、それだ。



 ——に——た


「え?」


 どこからか聞こえてくる声のような、音のような物に、思わずキョロキョロすれば、浮遊する光の塊がペトリと鼻先にくっついてきた。


「ひっ」


 思わず声を出して仰け反ってしまったが、なんとか振り払うことはせずにとどまった。

 本当にギリギリなんとかだけど。


 視界の端に映った旦那様が、首を軽く横に振って、「落ち着いて」と言わなければ、多分私は振り払っていたと思う。


 鼻先にくっついた光の粒は見えない。

 ぽわりと視界の中心が青白く光るのは微かに見えている。

 鼻先、そして、目の前には無数の輝きが夜空のように輝いている。


「わ、きれい……宝石みたい」


 美しく輝き浮かぶ光に手を伸ばした。


 ——きにいった!


 手が触れるか触れないか、そんな瞬間に頭の中に少年のような、少女のような声が響きわたる。


「!だ、だれ?」


「気に入られたんだ。この屋敷の真の主である、精霊たちにね」


「精、霊……?」


 旦那様は、首筋や脇の間をすり抜け戯れる光の塊をひとなでして、ふふ、と微笑んだ。

 

「僕の秘密は実はこれだけではないんだよ」

「どういうことですか?」


「これをごらん」

「なんでしょうか、えっ」


 ——ガツン


 旦那様は、精霊と呼んだ光達と同じように点滅して光る地面、そこに、おもむろに懐から取り出したナイフのようなものを突き刺した。


 さらに、トンカチのような物でナイフを叩いてさらに深く突き刺すと「そろそろかな」と、ナイフの持ち手に体重をかけた。


 そうすれば、硬そうな地面がもこりと山を作り土や石と共に何かがゴロリと出てきた。

 虫、ではなさそうだ。

 「汚れるよ」という旦那様の声も聞こえないふりをして、床に膝をつき、転がる”ナニカ“を観察する。これはなんだ?


「これが我が領地の特産であり、収入源。これが我が家の最大の秘密だよ」


 旦那様が、そっとその黒い塊の“ナニカ”を手に取り服でその泥を擦り落とした。


「!」


「君に敬意を表して、我が家業を開示しよう。誰にも言ってはいけないよ?」


 泥と土の塊だった物の中から、微かにピカリと光るものが姿を表した。

 



 それは私がよく知る物。



「これは……!」

 

 泥の中に埋まる、不恰好な姿の大粒の宝石だった。






数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


面白かった、続きが気になる!と思っていただけましたらブックマークなどしていただけると嬉しいです。執筆の励みになります。


楽しんでいただけましたら幸いでございます!

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