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さあ、もう『苦痛』は消えたでしょう?

「さあ、ここでは嫌なことは何もありませんよ」


 白い、白より深い霧に覆われた場所で、佇む女性は微笑んだ。


 女性は、とても不思議な雰囲気だ。


 全身に真珠色のローブを纏い、優しいオーラが溢れんばかりに出ている。のに、どこか近寄りがたい感じで、神経がピリピリした。


「あ……、あなたは?」


「私はですね。ええと、女神とでも名乗るとします。ふふふ」


 問いへ、女神と名乗る女性は楽しげに肩を揺する。

 だが、素直に「はい」と言えるはずがない。


「女神……。じゃあここは神様の場所なの?」


「簡単に言えば、生と死のはざま。あなたは一度死にかけたのです。そもそも、あなたの真の体は死んでいるか死ぬ寸前ですよ。精神だけがここへ訪れ、私と話しているわけです」


 あまり意味がわからないが、確かに言われてみれば喉にナイフを刺した気持ちの悪い感触を思い出した。


「なんとか理解した。じゃあ私が生と死のはざまにいたとして、何をしたらいいの?」


「――判断を。このまま安らかに、天界へ赴いてみるのが一番目の道。それであればあなたのお友達にも会えます。そして二番目の道は……、あなたの落とした物を取り戻させてあげます。代わりにそれ以外の全てを手放すことになりますけれどね」


 息を呑んだ。

 そして彼女は、迷い悩む。


 もちろん、あの()に会いたい気持ちはある。

 でも決めたのだ、必ず忘れ物を見出すと。だから――。


「私は、二個目を選ぶわ」


「あらあら。それは険しい道になりますよ? 気概はあるのですか?」


「己の誓いを果たす。それだけよ」


 女神はどこか悲しげに、どこか満ち足りた(さま)で笑み、述べた。


「わかりました。ではあなたの望み、叶えて差し上げます」


 (まばた)きの後、白い、白い場所がぼやけ、女神の姿が光り、溶けた。

 そのまま意識が闇に落ち――。


『く』『つ』『う』がない。

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